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2008年12月28日(日) 08時04分

【許さない 未解決事件のいま】(3)英国人講師遺棄事件 「必ず捕まえる」産経新聞

 ■減る関係者

 地下鉄東西線の行徳駅近くの路地裏に一軒の店がある。「Hippy Dippy Doo」。店主と同胞の英国人が集うバーだ。リンゼイ・アン・ホーカーさん=当時(22)=も同僚の英会話講師とよく訪れていたという。サッカー好きで、ビール片手にプレミアリーグのチェルシー戦を絶叫しながら応援する姿が見られた。だが…。

 事件から1年9カ月がたち、ショックを受けた友人の多くは帰国した。また、ホーカーさんが勤めていた英会話学校の倒産も重なり、事件を知る関係者は極端に減った。風化の影が忍び寄る。

 事件の4日前にもホーカーさんはバーを訪れた。その帰り道の西船橋駅で、市橋達也容疑者(29)から声をかけられたという。

 「おれのこと覚えている? この前、洗濯機を直しに行った男だよ」

 知人によると、市橋容疑者は、こうウソを言って近づいてきたという。「知らない」。ホーカーさんは自転車で帰路を急いだが、市橋容疑者は走って自宅まで追いかけて、「水を1杯くれ」とせがんだ。

 周囲も暗く、部屋にはルームメートがいたので安心できると思い、自宅に上げ、水を飲ませた。そこで英会話の個人レッスンをする約束をさせられた。これが事件の始まりだった。

 ■都心繁華街の聞き込み

 「この辺りで、一見(いちげん)さんを雇うホストクラブはありませんかね」。新宿・歌舞伎町のアダルトグッズ店に今年5月、千葉県警行徳署捜査本部の捜査員が聞き込みにやってきた。手には市橋容疑者の2種類の顔写真。「あらゆることを想定する」。捜査幹部がそう話すように、女装を想定した顔写真もあったという。

 大学卒業後、市橋容疑者は定職に就かず、ともに医師という両親から月10数万円の仕送りを受けて生活していた。だが事件後、その口座からの引き出しは一度もない。

 逃走時の所持金は、ホーカーさんの財布から抜き取った現金を合わせ、5万円程度だったとみられる。「当然底を突き、だれかの助けを受けているか、働いているか、どちらかだ」。警察はそうみている。

 歌舞伎町は市橋容疑者が事件前に、よく訪れていた場所だった。雑多な街は犯罪者が身を隠すのに絶好の場所で、捜査員は歌舞伎町を中心に都心の繁華街の店を一軒一軒、地道に聞き込む作業を連日続けている。

 「(容疑者は)必ず生きているし、そう信じないと士気もあがらない」(捜査幹部)。千葉県警は、通常の捜査本部事件の1・5倍にあたる150人態勢で今も行方を追っている。

 ■「死亡説」を否定

 10月、衝撃的な記事が英国紙に掲載された。「日本の警察は『容疑者は自殺した』と断定した」というものだ。国家公安委員長自ら即座に否定するなど、異例の対応がとられたが、あとを引いた。「死んだんじゃないですか?」。現場近くでさえもそう話す住民がいるのだ。

 事件直後は、電話が鳴りやまなかったほど集まった情報も今では1日に2、3件程度。「風化が怖い」。バーの店主は話す。

 3月に来日したホーカーさんの家族は、おそろいのTシャツを着て行徳駅などでビラを配り情報提供を呼びかけた。市橋容疑者の顔写真とともに、家族が着るTシャツにはこう記されてあった。

 「捕まるまで眠れない」

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