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2008年12月28日(日) 08時04分

国境緊迫、凍える冬 パキスタン、抑えきかぬ軍…対テロ戦影響産経新聞

 【バンコク=菅沢崇】インド・ムンバイでの同時テロ容疑者引き渡しをめぐり、同国とパキスタン間に緊張が高まる中、パキスタンは、インドとの国境沿いに2万人の兵力を移動した。インド軍による急襲を念頭に置いた予防的配備とみられる。だが、パキスタン内で軍強硬派が主導権を強めれば、事態は一触即発の状態になる恐れもある。米国主導のアフガニスタン国境付近でのテロ掃討作戦が手薄になるとの懸念も、現実味を増している。

 インド側は、ムンバイ同時テロをめぐって、パキスタンのイスラム武装組織「ラシュカレトイバ」などの関与を指摘して、容疑者の引き渡しを求めている。だが、パキスタン側は、証拠がインド側から提示されればパキスタンの国内法に従って独自に事件を処理するとの姿勢を崩していない。

 両国間には、犯罪人引き渡し条約が締結されておらず、「インド側の不満は高まるばかりで、パキスタン側も圧力回避に躍起となっている」(観測筋)との見方が有力だ。

 パキスタンは、3度、戦争で敗れているインドの圧倒的な通常兵力を脅威ととらえている。今回も、インド軍に進軍された場合、相当のダメージが予想される最大州パンジャブ州の古都ラホールを防備する形で、カスル、シアルコットなどに兵士を配置したもようだ。

 軍高官はパキスタンの英字紙ドーンに対し、「国境付近の監視を強化するため、必要最小限の防衛措置を講じた」と述べ、予防策の段階にあることを強調。対テロ戦の最前線である北西部の部族地域からの軍部隊の移動については、攻撃能力のある特殊部隊を除いていると説明した。

 ただ、今回の兵力移動の背景は、陸軍参謀長を兼任していたムシャラフ前大統領の時代とは異なる。「配置は文民のザルダリ大統領ではなく、陸軍主導で進められた可能性がある」(観測筋)からだ。2002年には、インド国会議事堂襲撃事件をきっかけに、カシミール地方でインド側75万、パキスタン側25万の兵力が集結。当時は、ムシャラフ氏の指導力と米国の仲介のもと、緊張緩和が図られたが、今回は、ザルダリ大統領が軍を掌握できず、武力衝突するとの懸念もぬぐえない。

 パキスタンの外交筋は、「パキスタン軍は、アフガン国境付近から兵士を移動しており、これ以上の移動は、テロとの戦いに支障をきたす可能性がある。移動は緊張緩和に向けて米国の積極的な関与を求めるメッセージの意味合いもある」と指摘している。

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