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2008年12月27日(土) 21時32分

命守る闘い、3カ月目に “自主営業”の京品ホテル中国新聞

 寒風吹きすさぶ中、慌ただしく人が行き交う年の瀬の東京・品川駅前。老舗の京品けいひんホテルを解雇された元従業員らがビラを配る姿が、なじみの光景になった。解雇翌日から、ホテル客室と一階飲食店を使って始めた“自主営業”は二十一日で三カ月目に入った。「自主営業は家族や仲間の命を守る闘いだ」と訴える元従業員らに支援の輪が広がっている。

 ホテルの一階外壁は真っ赤に染まった。「解雇撤回」や「廃業反対」を訴えるメッセージ。さらに「げき」と記された支援の寄せ書きも。

 集まったのは、げき文だけではなかった。四万六千五百人以上の署名が積み上がった。勤務する不動産会社で人員整理が始まった若い男性や、早期退職に応じた電機メーカー下請けの元社員らがホテルを訪ね署名した。

 元従業員らが加入する地域労組「東京ユニオン」京品支部長で、ホテル一階の居酒屋「いの字」の料理長金本正道かねもと・まさみちさん(57)は笑顔で話す。

 「壁にあんなにベタベタ張って、お客さんが来るのか不安だったけど、大勢寄ってくれる。地方から夜行バスで駆け付けてくれた人もいる」

 多くの会社が仕事納めの二十六日夜。金本さんの言葉どおり、店はにぎわった。金本さんらの闘いを知り、支援のため来店する客も多いという。

 元従業員らは解雇と同時に収入を失った。東京ユニオンは「自主営業の目的は利益を出すことではない。会社との交渉を続けるためだ。問題が円満解決したら売上金は会社に引き渡す」と説明。元従業員らへの生活資金融資は、組合の蓄えを使っている。

 ホテルを経営し、廃業と同時に従業員を解雇した京品実業の全債権を握っているのは、経営破たんした米証券大手リーマン・ブラザーズの日本法人子会社。

 京品実業側は建物を保全する仮処分を東京地裁に申請し一歩も引かない構えで、決定は年明け早々に出る見通しだ。だが仮に金本さんらに有利な決定が出ても、元従業員らの雇用にめどが付くわけではない。

 一階のとんかつ店「七兵衛」で働く神戸成幸かんべ・しげゆきさん(49)は大学生と高校生の娘がいる。「教育にお金がかかる。妻は心配している」。先が見えない不安とも闘っている。

【写真説明】京品ホテルの居酒屋「いの字」の店先で、客を見送る金本正道さん(中央)。壁には「檄(げき)」と書かれた支援の寄せ書きが掛かっていた=26日夜、東京・品川駅前

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200812270263.html