記事登録
2008年12月26日(金) 00時00分

派遣 最後の朝読売新聞


派遣社員が解雇となる朝、工場正門前で抗議のビラを配る労働組合のメンバーら(26日午前7時57分、栃木県大平町・いすゞ自動車栃木工場で)=吉岡毅撮影
いすゞ栃木・藤沢 820人 怒り収まらず

 官公庁や多くの企業が仕事納めを迎えた26日、トラック大手の「いすゞ自動車」で働く約820人に上る派遣労働者は、「契約打ち切り」の朝を迎えた。年末年始のため、失業給付を年明けにならないと受け取れない人、妻子とともに来月14日には社員寮からの立ち退きを求められている人……。「自分たちは切り捨てられたということなのか」。同社の工場ではこの日、多くの派遣労働者が不安と怒りを抱えながら、最後の勤務のため門をくぐった。

次の職 まだなし

 いすゞ自動車栃木工場(栃木県大平町)で、今年5月から派遣労働者として勤務してきた中谷和憲さん(37)はこの日朝、会社への不信と生活への不安を抱えたまま7か月間通った工場に向かった。

 派遣会社からは次の仕事先を紹介してもらえず、雇用保険の申請に必要な「離職証」すら事務手続きに時間がかかるため、年が明けてからしか受け取ることが出来ないからだ。

 北海道出身の中谷さんは派遣会社の寮に住みながら、エンジン部品の研磨作業に従事してきた。働き始めた当初は手取りで22万円あった給料もここ数か月は14万円ほど。寮の家賃や自動車ローンの支払いなどで貯金もままならなかった。

 いすゞ自動車が、派遣労働者と期間従業員計約1400人の契約を今月26日で打ち切ることを表明したのは先月19日。中谷さんは2日前に打ち切りを通告され、以来、朝食はご飯と卵、昼食は社員食堂で260円の日替わり定食、夕食は豆腐1丁という切り詰めた生活を続けている。ハローワークを通じて製造業や運送業など数社の面接を受けても、なしのつぶてだ。

 寮の退去期限は来年1月10日。同15日に宇都宮市内の家賃1万6000円の雇用促進住宅に入居するまで、5日間は友人の家などを転々とするしかない。

 「年末年始は家でじっと過ごすだけ。外に出掛ければ空腹になるだけだから」。中谷さんは悲しそうに肩を落とした。

妻子と寮追われ

 「解雇は許さない」。同社藤沢工場(神奈川県藤沢市)でも、正門の前で労働組合関係者がビラを配る中、派遣労働者の男性(27)が足早に出勤した。妻と子供の3人で暮らす社員寮を来年1月14日までに退去するよう命じられている。「行く当てもなく、どうすればいいのかわからない」。金銭的な不安を考えると、年末年始の支度もできない。その表情は険しいままだった。

 同工場で2年間働いてきた派遣の男性(46)も「仲間と毎日がむしゃらに働いてきたのに、こんな終わり方なんて」と嘆く。社員寮には来年1月いっぱい住むことができるが、次の仕事は見つかっていない。「ハローワークに行っても、この年齢で雇ってくれる会社はほとんどない。寮を出されたらホームレスになるしかない」。年末年始は寮で1人でカップめんを食べて過ごすという。

 いすゞ自動車は今月24日、約550人の期間従業員については契約の打ち切りを撤回した。しかし、その期間従業員たちの足取りも重かった。退職金が上乗せされるため、打ち切りに同意した藤沢工場の男性(23)は寂しそうに話した。「退職金をもらっても少しの間、食べていけるだけ。1年間、社員になりたくて一生懸命働いてきた。会社は自分たちを人として見ずに切り捨てた。今日で、いすゞとの縁もなくなった」

http://www.yomiuri.co.jp/national/kishimu/kishimu081226.htm