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2008年12月25日(木) 20時32分

【ブッシュ政権総括】日米同盟を強化 拉致でも日本への支援惜しまず産経新聞

 【ワシントン=古森義久】第43代米国大統領のジョージ・ブッシュ氏はまもなく2期8年の任期を終えるが、大統領としての実績はどう総括されるのか。多方面からの辛辣(しんらつ)な批判のなかでも、なお確実な成果が認められる分野も存在する。

 ブッシュ大統領の対外政策でも日米同盟の強化は顕著だった。とくに小泉政権時代の6年について「日米安保関係はこれまでで最高」と評された。クリントン前政権が中国に傾き、日本に対しては貿易不均衡だけをことさらたたき、安保のきずなを軽視するようにみえたのをブッシュ政権は共通の価値観による同盟の重視を説き、日米共同ミサイルや横須賀への原子力空母配備などの具体的な措置をとった。

 民主党寄りの外交評論家ファリード・ザカリア氏もこの点「ブッシュ大統領は中国の台頭がアジアの戦略的バランスを崩すことを知り、日本との戦略的関係を深化させた」として同大統領の功績を認めた。 

 北朝鮮に対してもブッシュ大統領は「悪の枢軸」と非難し、金正日政権を追い込み、北が日本の援助を期待して日本人拉致を認めるという効果を生んだ。拉致問題では横田早紀江さんをホワイトハウスに招き、激励して、その体験を「最も感動的」として語り続けることで日本への支援を惜しまなかった。ただし政権末期の1年ほど北朝鮮への軟化を示し、北を「テロ支援国家」指定から外したことがそれまでの対日協力姿勢を曇らせる結果となった。

 しかしブッシュ大統領の最大の功績といえば、やはり2001年の米中枢同時テロ以降、「愛国者法」の施行などにより米国本土では1件のテロも起こさせなかったことだろう。その対テロ戦争の広がりとしてのイラクのフセイン政権の打倒と民主化も、歴史的な重みを持つ政策だった。

 イラクでは大量破壊兵器の備蓄が発見されなかったことや平定への犠牲が予測をはるかに越えたことなど、負の部分は大きかった。だがその半面、中東の戦略的要衝にもしフセイン政権という自由主義陣営への敵性国家が存続した場合、あるいは新生イラクの国づくりを放棄して米軍が一方的に撤退した場合、日本をも含めての国際社会への打撃や不安的、脅威は計り知れなかった。

 その中東の要衝に米欧に顔を向けた民主主義国家が誕生しつつあることは米側への戦略的価値からも、また中東の民主化という歴史上の壮大な実験という点からも、前向きに評価されるだろう。この点、ブッシュ大統領をつい数日前にインタビューした保守系政治評論家のチャールズ・クラウトハマー氏は「中東の心臓部にいた憎悪いっぱいの敵が対テロ戦争での戦略的な同盟国に変容することは歴史によって必ず歓迎の評価を受けるだろう」と伝えた。ブッシュ大統領自身も「イラクの平定と民主化は究極には歴史の正当性を証するという冷静さと自信を示した」という。

 同大統領は米国一般の多くから金融危機での失態まで罪を負わされた。とにかく同大統領へのののしりこそが表明する側の良識を証するような印象さえ生まれてきた。ところが専門家側では前述のザカリア氏のようにブッシュ大統領が中国との関係を実利的にうまく管理し、インドには事実上の核兵器保有を認め、中国を牽制(けんせい)しての米国の戦略的パートナーにすることに成功したという指摘がある。

 ブッシュ大統領の特別補佐官を務めたデービッド・フラム氏は同大統領の「遺産」は「思いやりのある保守主義」としてアフリカのエイズウイルス感染者へ過去最大の医療援助を供したことを強調し、対外政策の一部の継承はオバマ政権によってもなされると書いた。

 世論調査の支持率では政権末期に22%にまで落ちたハリー・トルーマン大統領がその後、米国の歴史でも7番目に人気の高い大統領と目されるようになった。ブッシュ大統領がどのような歴史の審判を受けるのか、なお即断はできないようである。

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