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2008年12月25日(木) 20時30分

<石綿被害>元国鉄職員遺族とJR貨物など和解毎日新聞

 旧国鉄がアスベスト(石綿)対策を怠ったため悪性胸膜中皮腫で死亡したとして、元職員2人の遺族らが鉄道建設・運輸施設整備支援機構(横浜市)とJR貨物に賠償を求めた訴訟の和解が25日、横浜地裁(吉田健司裁判長)で成立した。機構・JR側の賠償責任を事実上の前提に1人当たり約1700万円を支払う。石綿被害に関する労災に基づく補償制度は不十分と司法が断じたに等しく、機構・JR側は救済制度の拡充を迫られる。

 鉄道業界の石綿被害を巡る初の訴訟。原告側の古川武志弁護士は「全面勝訴に等しい和解。同種訴訟の解決基準となり、迅速な解決に道を開いた」と評価した。石綿は車両の絶縁材や断熱材、ブレーキ部品などに使われていた。点検整備や車両連結作業などで石綿に接した元職員は約10万人とされ、潜在的な被害者救済につながる可能性がある。

 機構・JR側は和解で「石綿補償制度の適切な運営を図る」と表明。機構は和解後に1000万円の遺族補償一時金制度を来年4月に新設すると発表した。

 訴えていたのは旧国鉄大船工場(神奈川県鎌倉市)で1963〜87年に電機作業員を務め04年に61歳で亡くなった加藤進さんの長女大前麻衣さん(34)▽旧国鉄新鶴見操車場(横浜市)や川崎市のJR駅などで操車係だった小林忠美さん(今年1月に63歳で死亡、遺族が承継)。小林さんのような屋外職場被害を巡る司法解決は初めて。

 加藤さんは旧国鉄の業務災害認定、JRに移った小林さんは労災認定を受けており、その際の補償額は約2200万〜2300万円。遺族らは07年、国鉄の権利義務を継いだ機構などに死亡慰謝料など約3200万〜3400万円を求めて提訴した。

 原告側によると和解内容は、同種訴訟の東京高裁判決(05年)より多い2300万円の死亡慰謝料を認めるなどして損害額を計算。労災などの補償を差し引き、支払額を約1700万円と算定した。通常は和解の支払いに含まれない弁護士費用も加算した。

 いずれも機構・JR側敗訴の判決と同じ計算方法。地裁は11月、ほぼ同じ案で和解を迫っており「石綿対策を怠った」との原告側主張を事実上認めた形だ。同様に被害を受けた元職員らが提訴すれば、和解内容に沿って勝訴する可能性が高い。【杉埜水脈】

 ◇ことば アスベスト(石綿)

 天然の繊維状鉱物で、耐火材や断熱材などとして建材に吹き付けて利用された。粉じんを吸い込むと肺がんや中皮腫などの健康被害を起こす。05年に兵庫県尼崎市にあった旧クボタ工場の従業員や周辺住民に中皮腫などが多発していたことが表面化。吸引から発症までに年数がかかるため労災に気付かない人も多い。時効救済などを目的に06年3月、石綿健康被害救済法が施行され、認定されれば一時金などが支給される。

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