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2008年12月25日(木) 22時16分

<学力テスト>市町村は批判 秋田県の独自判断毎日新聞

 全国学力テストの市町村別平均正答率などが秋田県知事独自の判断で公表された。保護者からは歓迎の声もあるが、各市町村が反対する中での公表には教育の専門家からも「平均点だけで何の意味があるのか」と批判の声が上がった。都道府県教委が市区町村別、学校別結果を開示しないよう実施要領で定めている文部科学省も、知事の判断で公表するという想定外の事態に困惑している。【百武信幸、岡田悟】

 会見で寺田典城知事は「できるだけ早く情報を共有することが、教育の向上につながる」と強調した。

 だが、独自の分析結果をまとめ市のホームページでも公表している秋田市教委の高橋健一教育長は「平均点の公表が学力向上につながるかは疑問。平均点ばかりに着目されるのは極めて不満だ」と批判する。

 小中学校とも1校ずつしかなく、学校が特定される山村の東成瀬村は、中学生は4分類すべてが県内トップクラスだった。

 学力テストを受けたのは18人。東成瀬中の和賀哲(さとし)校長(51)は「好成績は村として喜ばしいことだが、下位の自治体の子供たちにとっては(来春の高校)受験を控えて『君たちは成績が悪かったんだよ』と言われたのと同じ。どこまで生徒の気持ちを考えて公表したのか」と述べた。

 保護者の間では意見は分かれた。小4の男の子がいる秋田市の主婦(44)は「親の間では、すでにどの学校がいいかなどがうわさになっていた。公表によって子供や先生の刺激になり、さらに頑張るのなら悪くないと思う」と評価。

 一方で中1の女子生徒の母親であるパート女性(44)は「公表が学校同士や教師の間での競争につながり、子供の教育環境に悪い影響が出るのではないか」と話した。

 ▽藤田英典・国際基督教大教授(教育社会学)の話 極めて問題で知事の暴走だ。教育行政には知事でも不当な介入をすべきではない。教委の自立性、専門性を尊重すべきだ。公表された数字が独り歩きし、点数が低い市町村の子どもや教員は責められ、受けるプレッシャーも大きくなる。公開すべき情報かどうかきちんと良識を持って判断してほしい。

 ▽田中博之・大阪教育大教授(教育方法学)の話 市町村の意向を無視した力ずくの公表。知事が全国トップの成果を広め、教員をねぎらうためのパフォーマンスに見える。市民には知る権利もあり、学校や教委はある程度の自己データ開示が求められる。点数より思考力を問う教え方をしているかどうかの指導実態を公表した方が改善につながる。

 ◇想定外公表 文科省は困惑

 「意図が分からない」。市町村別データを公表した寺田知事のコメント文を、文科省の担当者は苦々しげに見つめた。文科省は「序列化や過度な競争を避けるため」として、従来通り都道府県教委による市区町村・学校別データ公表を禁じた来年度の学力テストの実施要領を24日にまとめたばかり。「県内の市教委が反対しているのに、どうやって教育改善につながるのか」と首をひねった。

 自治体をけん制するため、文科省の専門家検討会議は15日、09年度の実施要領に、都道府県教委から「市町村別データは不要」と申し出があればデータを提供しないという例外規定を設けるよう提言した。

 教委にデータがなければ、知事部局からの要求や情報公開請求に悩まなくて済むからだ。

 これに対し、大阪府の橋下徹知事が「(文科省は)ばか」と猛反発、18日には文科省を直接訪れて撤回を求めた。結局、24日公表の実施要領には含めなかったものの、教委が知事部局などにデータを渡す際は「(過度な競争を避けるという)実施要領の趣旨を守ることを前提とし、必要な措置を講じること」とくぎを刺す規定を盛り込んだ。

 成績公表を巡る文科省と一部自治体の攻防は激化するばかり。文科省幹部は「何かがおかしい。教育論から外れ、政治的に利用されるようなことがあっては困る」と話した。【加藤隆寛、三木陽介】

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