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2008年12月24日(水) 09時16分

悲惨なUSBメモリ、名付けて「ユメちゃん」!?ITmediaエンタープライズ

 仕事が山のようにたまっている時ほど、眠いもの。あるいは、やらなければならないことが目の前にあるというのに、つい部屋の掃除をしてしまったり、普段読まない本を読んでしまったりする、意思の弱いわたし……。その日もそう。軽いお昼ごはんを済ませたあと、仕事をさっさと片付けようと張り切ったのもつかの間。わたしの「上のまぶた」と「下のまぶた」はとっても仲良しになってしまい、すぐにでもくっついて「意識」を連れた逃避行に出ようとしていた……。

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 「意識」も「意識」で、それに応じようとするから困る。青く透き通った「睡魔」という名の水晶がついた魔法の杖で、強制的にシャットダウン攻撃を仕掛けてくるのだから。だめだめ、それじゃ、だめなのよ! と、それまで劣勢だったもうひとりのわたしが警鐘を鳴らす。気分転換にコーヒーでも入れようかしら? と考え始めたとき、どこからともなく足音が聞こえてきたこと。軽やかに、しかし確実に近付いてきた足音の主は……、退職後の再雇用組、Iさんだ。しめしめ、これで睡魔との格闘にも決着がつきそうだ。それにしても、足音だけで人物が分かるというのも、変な技術(?)を身に付けてしまったものよね。

 Iさんは、齢60を超えるベテラン社員。この年代の人の例に漏れず、PCが大の苦手だった。「だった」というのは、正社員だったころはできる限りPCの利用を避けていたらしいのだが、定年退職のあと再雇用組に回ってからは、何をきっかけにか、それが一変したのだ。色々なことに興味を持ち、そして実践する人に変身したらしいのだ。

 そんなIさんの足音がわたしのデスクまで来たことを耳で確認すると、元気で軽快なIさんに負けまいと、振り向きざまに「こんにちはー」とあいさつしようとしたわたしだったが……。

 失敗した。

 半分寝ぼけている私の口から出た言葉は、「こにゃはー……」だったのだ。

Iさん 眠そうだね。あとにしようか?

 足音と同じように軽快な声で、開口一番、Iさんに言われてしまったわたし。最悪である。でも、これで眠気が一気に吹っ飛んだ。いえいえ、大丈夫ですよ、と一生懸命笑顔を作る。すると……。

Iさん そう? あのね、新しいUSBが欲しいんだけど。

 新しい「USBが欲しい」?……ああ、USBメモリのことね。

 USBポートに接続できる周辺機器は数あれど、おそらく最も身近な存在はUSBメモリだろう。もちろんプリンタやスキャナ、デジカメやマウス、キーボードなど、USBに接続して利用する便利な周辺装置はたくさんある。その中でもUSBメモリは異色の存在だ。まず、本体にUSBコネクタが直接くっついていて、ケーブルがない。同じようなものにUSB接続の外付けハードディスクなんてものもあるけど、ケーブルがシッポのように生えているせいか、いかにも周辺装置ぃ〜、という印象を漂わせている。しかし、USBメモリにはケーブルがない。本体を直接USBポートに差し込む。いわば、本体がUSBポートと一体化してしまうように見える。おまけにUSBメモリは、本体が小さい。本当に小さいものでは、USBコネクタと本体が同じぐらいの存在感だったりする。また、(仕事で使うには抵抗があるものの)最近ではこんなのやこんなのまである。本当にお手軽な存在になったものだ。

 そのせいか、わたしの身の回りには、USBメモリを「USB」と短縮して呼ぶ人が多い。「このデータ、USBに入れて渡してください」なんて使い方をするわけだ。もしかしたら、USBメモリのことを「USB」という、と勘違いしている人もいるかもしれない。もっとも、逆に「メモリ」とだけ言われても何のことだかさっぱり分からないのだけれど。もうちょっとかわいい略しかたはないものかしら。「Uメモ」とか、「Uメ(ユメ)ちゃん」とか。

 ゆめちゃん! それいいじゃん!……あれ、わたし、まだ寝ぼけてるのかしら?

 そんなことが、一瞬のうちにアタマを駆け巡る。そんなことを知るよしもなく、Iさんは言葉を続ける。

Iさん 今のUSBがさ、壊れかかっているんだよね。とりあえず修理したんだけど、このまま使うのは怖くって。新しいのが欲しいんだよ。

 そしてポケットから取り出したのは……見るも無残なスクラップと化した、会社支給USBメモリだった。

 どう表現すればいいのだろう。Iさんは一度分解、いや破壊してしまったようなのだ。メモリチップを覆うプラスチックのケースはいたるところにヒビが入っている。しかも、ところどころ欠けている。それを修理したのか、あちこちに厚く塗られた接着剤の跡がイタイタしい。落としたのか? それとも踏んだのだろうか。まずはIさんに聞いてみよう。

●愛称を付けてあげれば、優しく使ってもらえるかも

わたし ……これ、一体どうしたんですか?

 Iさんによると、PCからUSBメモリを抜く際に周りのカバーの部分にピシピシと裂け目が入り、カバーだけが抜けて、中身はPC本体に刺さったまま残ってしまったというのだ。いったい、どういう抜き方をしたのだろう? そんなにこのプラスチックケースはヤワなつくりなのだろうか?

 いやいや、きっと、Iさんが変な力の入れ方をして、無理に抜こうとしたのだろう。ケースと中身とが分離したことに慌てたIさんは、その抜けてしまったケースのプラスチック部分を接着剤で修理したらしい。しかも、欠けてしまったところにはちょっと厚めに接着剤を塗りこんで。内側の基盤に接着剤が着かないように気を使うのが大変だったと少し自慢げに話をしているが、そういう問題ではない気がする

 接着剤で無事に修理できたのでしばらく使っていたけれど、見た目があまりよくないし、また同じように壊れたらこんどは修理できないかもしれないと不安になったので、新しいものを支給して欲しいとやってきたのだった。

Iさん この状態で使うのって怖いだろ? な? な?

 一生懸命、自分の(修理したという)努力の成果と、それにも関わらずUSBメモリを交換することを正当化しようとするIさん。そしてわたしの手の上の、ある意味器用に修理されたピシピシのUSBメモリ。なんだか複雑な気持ちになってしまった。

 しかし、このような壊し方をして、よくUSBメモリのデータが無事だったものだ。そういえば、Iさんはいつもこういうことにはラッキーな人だ。PCがらみで何かトラブルを起こしても大事にいたったことがない。肝心のデータだけは無事だったり、アプリケーションの再インストールは免れたり、いつもギリギリセーフな人なのだ。

 USBメモリのトラブルは数あれど、このような状態に遭遇しようとは想定外だったわたし。USBメモリを取り巻くトラブルといえば、失くしたとか落としたとか、中のデータが読み取れなくなった、水没させたなどという話がほとんどだ。最近では、USBメモリにマルウェアが仕込まれていたというケースも多い。でも、物理的に壊されたものを見たのはこれが初めて。しかも、高いところから落としたとか、車や人や象が踏んづけたという理由で壊れたものではない。単に、いつもどおりUSBポートから抜こうとしての破損。手の平に乗っているUSBメモリは、見れば見るほど無残な姿である。このまま使い続けるのも伝説になっていいかもしれないけど、やっぱり怖い。さっさと新しいUSBメモリの支給をしたほうがよさそうだ。そこで所定の手続きを行い、Iさんには元のUSBメモリに保存されていたデータをコピーした真新しいUSBメモリを渡した。新しくなったUSBメモリを手にして満足そうに、再び足取りも軽く戻っていくIさんの後姿を見つめながら、「優しく扱ってくださいね」と声をかけるわたし。

そういえば、水に強いこんなUSBメモリもある。「ゾウが踏んでも壊れないUSBメモリってないかな?」と探したら、こんなのもあった。やっぱり、USBメモリは悲惨な使い方をされるものなのだろうか。

 さて、件の悲惨なUSBメモリは、わたしの部署で一時的に花形スターとなっていた。次から次へとスタッフが手にとっては、どうしたらこのような状態になるのかと注目を浴びていた。もっとも、この人気は1日限りのものだったけれど。

 PCを取り巻くいろいろな周辺機器はUSBを利用していることが多い。わたしも周辺機器の許容範囲について考えたり、どのようなものが持ち込まれているか社内を探検したりしたけれど、その結果、USBを利用した周辺装置や便利グッズは山のようにあることを知った。USBメモリはわたしたちにとって身近な周辺機器になったけれど、身近になりすぎて、ついうっかりと「精密機械」、「取り扱い注意」な道具であることを忘れてしまう。改めてUSBメモリの取り扱いを気を付けようと思う機会となった。ところでやっぱり、「ゆめちゃん」って名前を付けたら丁寧に扱おうって気になると思うんだけど、どうかしら?

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