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2008年12月24日(水) 09時22分

「mixiのようなポータル機能をメーラーで実現したかった」——東京薬科大学ITmediaエンタープライズ

 薬学部と生命科学部を持つ東京薬科大学は、学生や教員ごとに異なるドメインを取得し複数のメールシステムを使っていた。利用頻度はユーザーごとにばらつきがあり、中には「一度ログインをしただけでその後はまったく使わない」といったユーザーもいた。

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 電子メールを中心に情報共有を図り、教育に生かそうと考えていた同大学にとって、学生や教員が自発的に使うメールシステムの構築は重要課題だった。そこで同大学はSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の「mixi」の特性を参考にして、5500人規模の学生や教員が使うメールシステムを刷新、10月に本稼働させた。

 業務で利用する企業だけでなく、大学などの教育機関でも電子メールは必須となりつつある。そんな中、東京薬科大学はメールシステムの刷新により、電子メールを軸に情報共有の基盤を整備した。激化する大学間競争が引き起こす環境の変化に柔軟に対応できるオープンなシステムを構築し、学生に選んでもらえる大学を目指すように努めたという。

●mixiのようなWebメールシステムを作りたかった

 「mixiのようなメーラーにしたかった」。メールシステムの導入に携わった同大学生命科学部の森河良太講師は、刷新に当たりmixiを手本にした。

 東京薬科大学ではノートPCを学生ごとに配布し、学内情報やスケジュールなどの情報共有の基盤としてメーラーを使ってもらうように取り組んでいた。だが多くの学生はメーラーを使わなかった。「600人の学生に返信を促す内容のメールを送ってみたが、返答率は5%未満」(森河氏)となるなど、「携帯電話は使うが、PCからわざわざメーラーを立ち上げるのは面倒」というのが学生の本音だった。

 メールシステムの刷新を検討していた当時、学生がmixiを頻繁に使っているのを森河氏は目の当たりにした。PCを使わないはずの学生が、自らPCを開いていた。

 mixiで日記を書くと、mixiを使うユーザーのトップページに更新情報が反映される。日記を読んだ人がコメントを書き込むと、書いた人のページに「コメントがあります」という赤色の表示が出る。

 「mixiは、最初にトップページを見るという能動的な行動を取れば、その後は更新された情報が受動的に得られる」(森河氏)。こうした仕組みをメールシステムで実現できれば、学生が自発的にPCからメーラーを立ち上げてくれるようになる。「電子メールを軸に、カレンダーや教育システムなどの情報や機能を提供するポータルサイトのようなメーラーに刷新する」(同大学学務部庶務課の松崎日出海係長)ことで、利用率の底上げができると考えた。

●電子メールの本文と外部情報を連携へ

 このコンセプトの実現に当たり東京薬科大学が選んだ製品は、電子メールやカレンダー、ドキュメント、VoIP機能などを統合したWebメールシステム「Zimbra Collaboration Suite」(以下、Zimbra)。システムの構築に着手したのは2008年7月。9月まではテスト稼働などに費やし、10月初頭に本稼働を開始した。現在電子メールやスケジューラー機能などを使えるようにしている。

 メーラーを軸に情報のポータルサイトを作る——このコンセプトを実現するのに効果的なのは、Zimbraが持つ外部サービスとの連携API「Zimlet」だった。

 Zimletを使うと、メールの本文内に記載しているURLや日付、住所などを、関連するWebサービスと結び付けて表示できるようになる。同大学では、スケジュールや休講情報と電子メールの連携や、「医薬品の名称にカーソルを合わせると薬品情報をポップアップで知らせる」(森河氏)機能の実装などを計画している。

 将来的には、オープンソースの教育管理ソフトウェア「Moodle」や文書配信サービス「@Tovas」、ファイル管理システム「Xythos」などをメーラーから使えるようにする構想もある。あらゆる情報を確認できるポータルサイトとして、メーラーを昇華させる考えだ。

●無償のGoogle Appsを採用しなかった理由

 Webメールには、GoogleやYahoo!が教育機関向けに提供する無償サービスがある。インターネット経由で電子メールやスケジュール管理といった機能を提供するSaaS(サービスとしてのソフトウェア)形式のものだ。既に国内の大学でも導入が進んでおり、日本大学や立教大学は、数万人規模のユーザーがWebメール「Gmail」などを使うコミュニケーション基盤を作り上げている。

 そんな中、東京薬科大学はパッケージ製品であるZimbraを使い、専用サーバをはじめとしたメールシステムを大学内に構築している。GoogleやYahoo!のWebメールも検討した上で、SaaSではなく学内でデータを管理する方法を選んだ。

 「データを外に預けるのではなく、大学側で責任を持って管理すると決めていた」。松崎氏はその理由をこう説明する。

 同大学は高いレベルでの情報管理が必要とされる医療情報を扱っている。こうした情報を外部のサーバで管理した場合、サービス障害が起こると早急に対応できない。実際Google Appsで起こったサービス障害により、数時間にわたってメールサービスが利用できなくなることも起こっている。

 「預けたデータの二次利用や流出の可能性もゼロではない」(森河氏)など、大学外にデータを預けて管理することへの不安は尽きない。医療情報に責任を持つために情報を学内で保有することが、情報管理の安全性を100%に近づけることにつながると考えた。

 また、同大学ではメーラーをカスタマイズして独自の使い方をしている教授などもいる。基本機能に特化したSaaS型のサービスでは、細かいカスタマイズやバージョンアップが実現しにくい。システムを学内に保有して自分たちで開発するという土台を作ることで、こうした要望にも応えられるという。

 「運用管理の手間を省きたい大学はSaaS型の無償サービスを使う傾向にある。一方でデータの機密性を重視する場合は、自分たちでシステムを構築する場合が多い。大学の特性によってメールシステムの選び方は異なる」(松崎氏)。教育機関におけるメールシステムの導入には、コスト以外の価値がどれだけ得られるかを考える必要がある。

 Zimbraの導入により、管理の負担が重くのしかかっていたそれぞれのメールシステムを一元化できた。既に構築していた認証システムとも連携も実現し、専門知識を持たない人でもメールシステムを管理できるようになった。

 Zimbraを選んだ理由を松崎氏は「さまざまなサービスとの連携に加え、簡単に操作できる点を評価した。30〜40の製品を検討した上で一番使いたいメーラーだった」と振り返る。教育機関でメールシステムの活用を活発にするには、使い勝手や機能面での充実、管理負担の削減に加え、ユーザーが自発的にメーラーを使う仕組みを取り入れることが必要のようだ。

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