記事登録
2008年12月24日(水) 02時31分

<臓器移植>登録で追跡…学会が新制度 質向上へ情報蓄積毎日新聞

 日本移植学会(寺岡慧理事長)は、臓器移植を受けた患者と生体移植の臓器提供者に関する情報を集約する登録制度を来年1月から始める。過去に移植を受けた患者も登録し、移植後の状態を追跡する。移植件数が最も多い腎臓から始め、10年以降、肝臓、心臓、肺、膵臓(すいぞう)などにも拡大する。登録によって移植医療の質を高める一方、将来的には不正な臓器移植を防ぐ狙いもある。【山田大輔、関東晋慈】

 臓器売買など移植をめぐる不正については、世界保健機関(WHO)が世界規模で臓器の行方を追跡できる「トレーサビリティー」の徹底を検討している。各国に対しても臓器の適正管理を求める方針で、日本はそれに先駆け、移植の実態を把握する制度を新たに検討した。

 登録の対象となるのは、脳死、生体、心停止後の各移植手術を受けた患者と、生体移植の提供者。海外で移植を受けた患者や、過去に手術を受けた患者も対象に含める。

 国内の移植実施施設(病院)などに対し、学会が入力用のメモリーを配布。病院側が入力して送り返す。入力項目は、対象者の性別、年齢、原疾患、移植に至った経過、提供者に関する情報、手術日や場所、移植後に起きた合併症、社会復帰の状況など約150項目。個人情報が外部に漏れないよう番号制にし、必要に応じて提供元の病院のカルテと照合する。情報は暗号化し、学会が管理する。

 来月スタートする腎臓の登録には、約110の病院が参加する予定だ。腎臓移植は年間約1200人が移植を受け、約1万6000人が移植後に通院している。こうした患者の情報は従来、移植を実施した病院や移植後の治療を担当する病院が個別に管理してきたが、登録制度によって情報が一括管理できるため、手術法による治療成績の違いを比較したり、施設ごとの治療成績を出すことも可能になる。生体移植の臓器提供者の情報に関しては、手術後のケアの向上に活用する。

 WHOは来年5月の総会で移植医療ガイドラインを改定し、各国に臓器の管理徹底を求める予定。同学会の剣持敬・登録委員長は「我々が始める電子登録制度が最も有効な管理手法になる。すべての臓器に関する情報を一括管理できる態勢を数年以内に作り、移植医療の安全性向上と不正防止につなげたい」と話す。

 ◇解説 不正防止へ第一歩 情報「ガラス張り」に

 日本移植学会が臓器移植に関する登録制度を始める背景には、すべての移植情報を「ガラス張り」にすることによって、患者と提供者の移植後のケアを徹底し、臓器売買などの不正をなくそうという国際的な機運がある。

 日本の臓器移植の9割近くは生体移植だが、患者や提供者の移植後の健康状態の把握は十分とはいえなかった。件数で最も多い腎臓移植でも「移植を受けた人と、移植を受けず人工透析を続けた人の10年後の生存率の違いすら、どの国もデータを持っていない」(高原史郎・同学会副理事長)という状況だ。肉親などに腎臓を提供した後、残りの人生を一つの腎臓で生きる提供者に関しても、健康状態を正確に把握できるデータはほとんどない。こうした現状から、国際移植学会は今年5月、提供者のケアの充実を求める宣言を採択した。

 登録によって情報が蓄積されれば、移植医療に関するデータベースとして活用できる。治療法の選択などについて科学的な根拠が補強され、移植医療の質の向上が期待できる。

 一方、海外へ渡っての移植が臓器売買の温床となったり、中国で死刑囚から摘出した臓器が移植されるなど、人道上問題のある移植への批判は国際的に高まっている。世界保健機関(WHO)が臓器の適正な管理を各国に求めているのもこんな理由からだ。

 同学会は「倫理観に訴えても不正はなくならない」と判断、登録制度に乗り出した。ただ、過去までさかのぼって移植の詳細を網羅するのは容易ではなく、今回のスタートは不正防止へ向けた第一歩といえる。実際に登録が始まり、提供元が不明な臓器を移植された患者が出てきた場合にどう対処するかなど、新たな課題への対応も求められる。

 厚生労働省の峯村芳樹・臓器移植対策室長は「移植医療の安全性を高めるために、制度を整備し科学的なデータを積み重ねることは重要だ」と話す。【関東晋慈、山田大輔】

【関連ニュース】
病気腎移植:患者ら学会幹部提訴「生存権の侵害」 松山
病気腎移植:禁止問題で患者「国を提訴」も
提訴:病気腎移植禁止は「生存権の侵害」 腎不全患者ら7人、損賠など求め
病気腎移植:禁止問題 患者「国を提訴」も
臓器移植法

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081224-00000011-mai-soci