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2008年12月24日(水) 21時11分

<下山判事罷免>裁判員制度控え大きな痛手毎日新聞

 部下の女性職員へのストーカー行為で有罪が確定した下山芳晴・宇都宮地裁判事(55)が24日、弾劾裁判で罷免された。下山判事は判決後に謝罪のコメントを出したが、来年5月の裁判員制度スタートを控え、裁判所は大きな痛手を受けた。

 午後2時半過ぎ、国会内の裁判官弾劾裁判所。「非訴追者(下山判事)を罷免する」。裁判長の松田岩夫参院議員が主文を告げると、下山判事は直立したまま大きく1度うなずいた。無言で国会を後にしたが、弁護人を通じて出したコメントで「弾劾裁判所の判断は、国民の判断であると真摯(しんし)に受け止めて従う。残された人生を、身を慎みながら、少しでも人のお役に立てるような生活を送りたい」と述べた。

 下山判事が山梨県警に逮捕されたのは、裁判員制度スタートのちょうど1年前に当たる5月21日。国民の司法参加を実現する新制度に冷や水を浴びせたことを意識してか、下山判事は24日のコメントに「国民の皆様からの協力を仰ぐ立場にあったのに、その信頼を大きく損ねるような行為に出たことを深く反省しています」と改めて記した。その一方で、ストーカー行為が発覚して自宅待機を命じられた4月以降も「生活できない」と給与や賞与を受け取り続けたことには批判も強い。

 判決後に記者会見した松田裁判長は「罷免は全員一致の判断」とした上で、「司法の役割は国民の信頼があって成り立つ。裁判官としての良心、誇り、品位が国民の信頼を得る道だ」と語った。

 最高裁の大谷直人・人事局長は「裁判官をはじめ裁判所に勤務する者は罷免判決を厳粛に受け止め、職責の重大性を改めて認識し、国民の信頼に応えていくよう努めたい」とのコメントを出した。【北村和巳、篠原成行】

 ◇職責の重さ自覚を

 下山判事に対する罷免判決は、予想された結論とはいえ、裁判所関係者に与えた衝撃は大きい。今月には京都家裁の書記官が、振り込め詐欺で凍結された銀行口座から現金が引き出された事件で逮捕された。裁判所は人の生命や自由、財産を左右する。不祥事が重なれば国民の信頼は得られず、その存在基盤が揺らぐ。

 最高裁関係者は「個人の資質の問題だ」と言う。しかし、「良心に従って独立して職権を行う」(憲法76条)立場の裁判官の不祥事は、単に「個人の問題」で済まされず、裁判所全体への信頼を失うことになりかねない。

 来年5月に始まる裁判員制度の目的の一つは、国民から遠い存在だった司法を身近にして信頼を高めることにある。最高裁は、研修や会議、職場などあらゆる場面で、背負っている責任の重さを自覚するよう呼び掛けているが、相次いだ不祥事を重く受け止め、さらに有効な再発防止策を打ち出す必要がある。【北村和巳】

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