記事登録
2008年12月23日(火) 23時42分

「破綻」か「大リストラ」か、凍える労働者…デトロイト読売新聞

勤務を終え、工場から家路に就く従業員(米・デトロイトのクライスラー・ジェファーソン工場で)=小西太郎撮影

 米政府が、米ゼネラル・モーターズ(GM)とクライスラーに対するつなぎ融資を決めたことで、両社の年内の倒産はひとまず避けられた。

 しかし、米自動車大手3社(ビッグスリー)の工場従業員や販売店は、先行きの見えない将来に不安を抱え、やり場のない怒りや不満が充満している。ビッグスリーの地元・ミシガン州デトロイトの表情を追った。

 デトロイト市中心部から車で5分も走れば、家主がいなくなり、崩れ落ちた住居が立ち並ぶ。廃虚と化したいくつものビルの中では、行き場を失った人たちが体を小さく丸めて氷点下の寒風をしのいでいる。

 ビッグスリーがこれまでに実施したリストラで、街にはすさんだ空気が漂う。そこへ、さらなる人員削減の大波が押し寄せようとしている。

 クライスラーは19日から北米30か所の全工場で、1か月以上の生産休止に踏み切った。そのうちの一つ、デトロイト郊外にあるジェファーソン工場は、全米で最も古くから稼働している自動車工場だ。

 「みな職を失う不安におびえているのに、経営陣から何の話もない」。従業員のマーク・スラブコさん(45)は、真っ白な息と一緒にいらだちを吐き出した。工場再開の確証がもてないという。

 50歳代後半のウィンストン・デイリーさんも、「経営危機は経営陣の責任だ。我々労働者はこれまでのリストラでも譲ってきたのに、経営陣は何を失ったのか」とまくし立てた。

 GMも1月から北米での生産を3割減らす。33年間、GMの工場で働いてきたカレン・ジョンソンさんは「悪いことは考えないようにしている」と言いながら、表情を曇らせる。

 ビッグスリーの経営者らは「我々には引き続き多くのビジネスパートナーの協力が必要だ」(クライスラーのロバート・ナルデリ会長兼CEO)と、従業員あてのメールなどで「結束」を呼びかける。

 しかし、経営陣が来年3月までに人員削減や賃金引き下げなどの抜本的なリストラ策を示せなければ、政府からの資金繰り支援は途絶するどころか、回収される。ビッグスリーの行く手には破綻(はたん)か、大幅リストラかの二者択一しかないのが現状だ。

 デトロイト周辺で3軒の日本食レストランを経営する山田茂さん(59)は「30年前の活気がウソのように廃れてしまった」と寂しげに話す。

 雪の残る路地。シャッターを下ろした商店の前で曇り空を仰げば、73階建てのGM本社ビル「ルネサンス・センター」がかすんで見えた。(デトロイトで 小谷野太郎)

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20081209-206556/news/20081223-OYT1T00714.htm