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2008年12月23日(火) 22時01分

豪腕に郷愁? 今なぜか田中角栄ブーム産経新聞

 麻生太郎内閣の支持率低下が顕著になるなか、「平民宰相」「今太閤」の異名をとった田中角栄元首相が、にわかにクローズアップされている。雑誌やテレビが相次いで田中元首相を取り上げ、存命ならどんな政策を打ち出すかと特集を組んだ。不況や雇用不安が続く現状を踏まえ、改めて田中元首相の手法に学ぶ視点だ。一方、清濁併せのんだ“昭和のカリスマ”の再評価を懸念する声もある。(伊藤弘一郎)

 「いまこそ田中角栄流」「角栄政治にヒントがあった」。最近の雑誌に、相次いでこんな見出しが躍った。「週刊ポスト」では田中元首相が蔵相時代の政策を例に挙げ、現在の不況対策としても通用すると提言。隔週誌「SAPIO」では計27ページを割いて特集、TBSでも情報番組で「静かなブーム」と題し、田中元首相を取り上げた。

 首相の座を降りて34年、死去から15年。なぜ今、スポットが当たるのか。

 週刊ポストの三浦和也副編集長は「定額給付金をめぐる騒動で、経済政策として、より実効性のあるものを求める声が多かった。インパクトのある政策をとった首相をさかのぼると、田中氏が浮かんだ」。情報番組を制作した毎日放送のプロデューサーも「田中氏が首相だったころは日本が元気だった。不況が続く今、田中氏を懐かしく思う人がいるのではと考えた」と企画意図を説明する。

 読者や視聴者からは「角栄さんならスピーディーに的確な施策を打って不況を救ってくれていた」「政治に、ああいう力強さが欲しい」と支持する感想が多数、寄せられた。「安倍晋三氏以降、小粒な首相が続き、存在感を示せないことも人気復活の要因では」と三浦副編集長は推測する。

 田中元首相に関する著書がある政治評論家の小林吉弥氏は、再評価の背景に人並み外れた「発想力」があると分析する。田中元首相が基本を立ち上げ、近年、政治課題となった道路特定財源を例に「生きていればとっくに別の法律を作って対応している。田中氏以上の発想力をもった政治家が出てこない」と話す。

 一方、福岡政行・白鴎大学教授(政治学)は、ロッキード事件に代表される田中元首相の負の部分が忘れられていると指摘。「経済が悪いと、国民の深層心理としてカリスマ性のある政治家を待望する。政治家には力強い実行力が求められるが、決して独裁者的にならぬよう、気をつけてみていかないといけない」と、安易に「強いリーダー」を求める風潮に懐疑的だ。

     ◇

 ■田中角栄 大正7年、新潟県二田村(現・柏崎市)生まれ。昭和22年、28歳で衆院議員に初当選。昭和47年7月から49年12月まで首相。日中国交正常化などに取り組む一方、著書「日本列島改造論」を地でいく大型公共事業に着手。政策実行力や官僚掌握術にたけ「コンピューター付きブルドーザー」の異名も。同51年、ロッキード事件で受託収賄容疑などで逮捕されたが、発言力を保った。平成2年に政界を引退。同5年、75歳で死去した。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081223-00000589-san-soci