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2008年12月23日(火) 21時58分

【公教育を問う】8部(3)中高一貫化で独自色出す公立伝統校産経新聞

 今年3月、静岡県立浜松西高校から“中高一貫1期生”が巣立った。水泳の古橋広之進氏らを輩出した伝統ある同校で、平成14年に併設された中等部から6年間の一貫教育を受けた初めての卒業生だ。

 進学実績は注目された。「国際社会のリーダー育成」を目標に国語と英語の「表現」を学校選択教科として中1から学ばせ、先取りと習熟度別・少人数授業を徹底した独自カリキュラムの成果はどう出るのか。

 結果は、東大など旧帝大への合格者は前年、前々年の3倍となる21人。卒業生の53%が国公立大に現役合格した。浅羽浩校長は「満足しきっているわけではないが、一定の評価はできる」と表情を緩める。

 14年当時、公立伝統高の中高一貫化はまだ珍しく、周辺の公立、私立中は「クラスのリーダーになれる生徒を奪われる」と警戒感が強かったという。

 「うちに対抗したのか、浜松市内の私立校は雨後のタケノコのように中高一貫になった」と浅羽校長。入試倍率は当初、6倍を超えたが今春は3・2倍にまで落ち着いた。「他の公立中も自校の良さを強くアピールするようになった。一定の競争原理を作ったという意味で地域の教育に好影響を与えたのでは」

 文部科学省によると、平成11年度に導入された中高一貫校は、20年度は334校で前年度より54校増。うち公立は157校だ。

 東京都内でも17年度に都立白鴎、18年度に小石川など伝統校が相次いで一貫校化した。小石川は「小石川教養主義」を中学でも掲げ、SSH(スーパーサイエンスハイスクール)に指定された高校と連携した授業を行うなど伝統を継続した独自の教育を行う。

 私立中学受験指導を行う四谷大塚の岩崎隆義中学情報部長は「公立中高一貫校が首都圏でどれだけ存在感を示せるかは、小石川の1期生の進学実績にかかっている。名門復活の都立日比谷高並みの結果が出れば、大きな流れが変わるかもしれない」と話す。

 公立中高一貫校にとって悩みの種は、入学に当たって学力試験ができないことだ。受験競争の低年齢化を懸念して学校教育法施行規則で定められ、多くの学校では適性検査と面接などで合格者を決める。適性検査は思考力を問うPISA(国際学習到達度調査)型の問題が多いが、入学後の学力のばらつきは各校に共通した課題でもある。

 前出の浅羽校長は「学校からすれば、学力こそ適性なのだが…」と苦笑。「受験生側もきちっとした学力検査を求めている。公立だけができない状況はおかしい」と疑問を呈す。

 学校の廊下にびっしりと模造紙で張られた中学生の「研究成果」。高校生が真剣な表情でのぞき込み採点している。テーマは「千葉中高および通学路周辺の社会科的調査」。県立千葉中高での総合学習発表会での一場面だ。

 千葉高は県内公立トップの進学校。だが近年は私立渋谷幕張中高に進学実績で抜かれていた。今年度から中高一貫化したことについて「渋幕を抜き返すのが狙いでは」との憶測も飛んだが、県教委の県立学校改革推進課長だった江崎俊夫校長は笑って否定する。

 「東大の合格者数を競うのは私立がやればいいし、今はそんな時代ではない。うちは先取り学習はやらず、公立ならではの人材育成を目指す」

 学力以外にも物の見方や考え方、プレゼンテーション能力などをじっくり身につけさせる。重点を置いているのが科目横断的な「総合学習」で「県内の公立校での成功事例の集大成的な内容にしている」という。

 千葉中の入学倍率は今春は約27倍で来春は17倍程度の見込み。しかし、公立一貫校のすべてが順調なわけではない。香川県立高瀬のぞみが丘中は、定員割れが続いたことを理由に来年度から募集を停止。公立一貫校では初めてのケースだ。

 「生徒が集まる、進学実績が上がるという、中高一貫に対する“幻想”が教育関係者と保護者の双方にまだある。問題はどんな人材を育てたいのかという教育の中身だ」と千葉高の江崎校長は話す。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081223-00000587-san-soci