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2008年12月23日(火) 19時38分

切断遺体も…メキシコ「麻薬戦争」残虐化産経新聞

 【ロサンゼルス=松尾理也】政府が麻薬密輸組織取り締まりに軍を投入し、「麻薬戦争」ともいえる状態が続いているメキシコで、頭部を切断された兵士ら9人の遺体が一度に発見される事件など麻薬組織の残虐な報復が多発し、国民を恐怖に陥れている。麻薬組織がらみの殺人は今年に入って5376件と、2007年の2倍以上に急増。こうした動きに、米政府は「わが国が直面する最大の脅威のひとつ」と危機感を募らせている。

 21日、9個の頭部と頭部のない遺体9体が発見されたのは、南部ゲレロ州の州都チルパンシンゴ。兵士8人と元警察幹部1人の遺体とみられる。頭部はポリ袋に詰められ、「われわれを1人殺せば、お前たちは10人死ぬことになる」とのメモとともに、市内のショッピングセンターに放置されていた。

 メキシコでは、現カルデロン大統領が2006年12月に就任すると同時に、国家的課題として麻薬組織の撲滅を宣言。腐敗が指摘されてきた警察だけでなく、約4万5000人の兵士からなる軍部隊を全国の重要拠点に投入し、徹底的な取り締まりを続けてきた。

 これに対し、米国のカリフォルニア州サンディエゴと国境を挟んで向かい合うティフアナでは、11月だけで警官3人を含む9人の頭部切断遺体が発見されるなど、各地で麻薬組織による血生臭い報復が行われていたが、チルパンシンゴでの惨事はその中でも、政府にとって最も大きな痛手となった。

 メキシコ検察当局が今月明らかにしたところでは、組織犯罪に絡んだ殺人件数は今年に入ってから12月初めまでで5376件。2007年度(2477件)の2倍以上に急増した。うち943件が11月に発生しており、当局は「今後さらに増える可能性がある」と懸念を隠さない。

 カルデロン大統領は「麻薬組織とは一切交渉しない」と、壊滅まで麻薬戦争を戦い抜くことを誓っている。しかしその足元で、11月には麻薬取り締まりを担当する特別班を指揮する検察幹部が麻薬組織から巨額のわいろを受け取っていた疑いで逮捕されるなど、麻薬組織側からのゆさぶりも目立っている。同月にはティフアナで、500人もの警察官が組織とのつながりを疑われ配置転換されるという事件も起きた。

 現在、米国に流入するコカインの9割はメキシコ経由とされる。麻薬生産の拠点となり1990年代に国際問題化したコロンビアの麻薬組織が衰退するのと同時に、今度は米国の国境警備の乱れをつく形で密輸ルートを開拓したメキシコの組織が前面に出るようになった。

 こうした状況を、米司法省傘下の米麻薬情報センターは年次報告書で「米国が直面する最大の脅威のひとつ」と指摘。ブッシュ政権は総額14億ドル(約1200億円)にのぼる麻薬対策関連の資金援助の方針を打ち出すなど、麻薬戦争になかなか勝利できないカルデロン政権に対する支援強化に乗り出している。

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