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2008年12月23日(火) 14時02分

“乗り鉄”垂涎のプラチナチケット入手…めったに乗れない「高島貨物線踏破号」の旅産経新聞

 品川、両国駅をそれぞれ出発し、大宮駅まで貨物線を乗り継ぐ珍しい臨時列車が運行された。「貨物線踏破の旅」と銘打ち、JR東日本東京支社が用意した乗車券はわずか30分で完売。その後も問い合わせは相次ぎ、いわゆる“乗り鉄”垂涎(すいぜん)のプラチナチケットとなった。2ルートのうち品川発の「高島貨物線踏破号」に同乗した。


■お座敷列車が工業地帯を疾走


 20日午前8時21分、品川駅(東京都港区)9番ホームに485系ジョイフルトレイン「華」が入線。カメラを手にした鉄道ファンたちが畳敷きのお座敷列車に乗り込んでいった。

 同35分、同駅を定刻通り出発。品鶴線(品川〜鶴見、17・8キロ)に入り東海道新幹線と並走、新幹線が通過するとあまりの速さに窓全体が真っ白になる。同線は貨物線だが横須賀線の一部にもなっており、貨物列車だけでなく湘南新宿ラインや成田エクスプレスも走る区間だ。新鶴見信号場(川崎市幸区)で停車。

 午前9時ごろ、旅の序盤でいきなりハイライトの高島貨物線(鶴見〜桜木町、8・5キロ)がやってくる。京浜工業地帯に点在する工場への貨物輸送が主な役割で旅客列車はめったに通らない。

 「貨物を運ぶ区間ですから高速で走れるように造られていないのではないか」

 隣の男性が説明するように電車は工場間をゆっくりと通過。乗客は車窓にくぎ付けになる。みなとみらい地区が遠くに見える東高島貨物駅(横浜市神奈川区)でしばらく停車した。

 午前9時11分ごろ、同駅を出発し、桜木町駅付近から根岸線(横浜〜大船、22・1キロ)に入る。京浜東北線と直通する旅客線だが、当初は貨物線として計画されていたという。

 同45分ごろ、本郷台駅(横浜市栄区)付近から東海道貨物線(浜松町〜小田原、80・8キロ)に入る接続線へ。短い区間だが、高島貨物線に次ぐ見どころになる。東急車輌が製造した車両の甲種輸送=貨物扱いで鉄道車両を牽引(けんいん)すること=のルートになるが、乗客を乗せた旅客列車はまず通らない区間だ。

 午前10時10分ごろ、大船駅(神奈川県鎌倉市)から東海道貨物線に入り茅ケ崎駅(同県茅ケ崎市)に到着。ここで折り返しとなった。


■ふだん見ることができない景色「絶品です」


 隣のテーブルに座っていた都内に住むコンサルタント業の柏尾知宏さん(25)は旅が趣味。その中でも「乗る楽しみもある鉄道が一番」と話す。「同じ区間でも毎日表情が違う。瞬間を目に焼き付けたい」といい、今回の旅は「ふだん乗れないところに行けるのが最大の魅力。絶品です」と感無量の様子だった。

 柏尾さんと一緒に参加した婚約者の佐々木幸織さん(21)も「いつも苦労して切符を用意してくれるから…」と苦笑しながらも、「きょうは窓が大きくて景色も見やすい」と満足そう。

 缶ビールを手に地図をながめていた三菱東京UFJ銀行に務める安居弘明さん(49)は、5年前に赴任先だったイタリアで国鉄の完全乗車を達成。約1万キロ、3年がかりという偉業を聞きつけた国鉄広報から取材を受け、新聞に取り上げられたこともあるという。

 安居さんは時折車窓に目を向けながら「向こうは遅れが当たり前。乗り継ぎがうまくいかなくて苦労した。イタリアではこんなことやる人がまったくいないらしく、国鉄広報はとにかく驚いていた」と楽しそうに振り返った。


■トンネル区間が4分の1


 午前10時19分ごろ、茅ケ崎駅を出発。大船駅付近で地下トンネルへ。珍しい荷役ホームのある横浜羽沢貨物駅(横浜市神奈川区)で少し地上に出たかと思うと、また地下へ。ここは東京と小田原を結ぶ通勤ライナー「湘南ライナー」が走る区間だ。新鶴見信号場に戻りしばらく停車し、午前11時2分に出発。武蔵野貨物支線へと入る。

 武蔵野線(鶴見〜西船橋、100・6キロ)は府中本町駅(東京都府中市)から先は旅客運転もしているが本来は貨物線。土曜日のため貨物列車はあまり見掛けなかったが、沿線には貨物ターミナル駅、信号場がひんぱんに現れ、線路がいくつも並ぶ景色が楽しめる。

 新鶴見を過ぎるとまたすぐに地下区間。梶ケ谷貨物ターミナル駅(川崎市宮前区)で少し地上に出て再び地下に潜る。東海道貨物線を含め、約4時間の行程のうち4分の1ぐらいがトンネルになる。

 ようやく地上に現れると新座貨物ターミナル駅(埼玉県新座市)が見えてくる。途中、新秋津駅(東京都東村山市)近くで209系を改造したJR八王子総合訓練センターの訓練車や、東芝府中工場の廃線跡に103系が止まっていたりと、思いがけない景色が出くわすこともあった。

 午後0時11分ごろ、定刻通り大宮駅11番ホームに到着。「高島貨物線踏破の旅」は終わった。

 定員150人に対し、キャンセルを除く143人が参加。内訳は大人138人、小学生以下の5人。参加前は、マニアたちが良い景色が見える窓を奪い合ったり、見どころを通過するたびに大騒ぎしたりということを心配していたが、まったくの杞憂(きゆう)だった。

 じっくりと車窓をながめながらビデオカメラを回し続けたり、近くの人とこれまでの旅の話をしたり、その人なりの楽しみを追求するという実に大人のツアーであった。

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