記事登録
2008年12月23日(火) 13時37分

ラストエンペラー妻のドラマ、家族「同意ない」中国当局を提訴 読売新聞

 【瀋陽=牧野田亨】旧満州国皇帝だった愛新覚羅溥儀(あいしんかくらふぎ)の4番目の妻、李玉琴(2001年死去)を主人公にした中国のテレビドラマを巡り、李の家族が「家族の同意がない作品の撮影、放映を許可したのは違法」として、国家ラジオ・映画・テレビ総局を相手に許可取り消しを求める訴訟を北京で起こした。

 許認可権を持つ当局が被告になるのは異例で、訴訟の行方に注目が集まっている。

 訴えたのは長春市在住の李の長男、黄煥新さん(46)。黄さんは1999年、母親の生涯を映画にしようと脚本家に依頼。李本人も完成した脚本に納得し、制作を託して死去した。だが、06年に脚本の使用権を買い取った北京の制作会社が、無断で脚本を書きかえるなどして撮影を始めたため、黄さんは同総局に放映許可を出さないよう申し入れた。しかし、聞き入れられなかったことから9月に提訴した。同総局は「手続きに問題はない」と反論している。

 平民だった李は15歳の時、溥儀の新たな妻を探していた日本の関東軍の目に留まり、宮廷入り。敗戦後、しばらくして離婚した。黄さんは「本人の意思ではなく、歴史に巻き込まれただけ」と話す。だが、新しい脚本は宮廷入りまでの経緯を省き、あたかも溥儀に喜んで嫁いだ印象を与えるという。

 黄さんが当局相手の訴訟に踏み切ったのは、つらい記憶があるからだ。李は45年8月の満州国崩壊後、「売国奴」の妻と批判され、黄さんも少年時代、「お前の母さんは悪人だ」とののしられ、いじめられ続けたという。「放映されれば、今の私や家族の生活に大きな影響を与えかねない」と懸念する。

 中国では近年、映画などで取り上げられた近代著名人の親族が「事実に反する」と異議を唱えるケースが目立つ。俳優ジェット・リーが主演した06年の映画「霍元甲」(邦題・SPIRIT)も、武術家だった霍の孫が「祖父は映画のように好戦的ではなかった。名誉を侵害された」として訴訟ざたになった。

 ある制作会社代表は「激動の近代を生きた人物への関心は高く、目を引く話題があれば大成功が見込める。そのため、事実の誇張、さらには歪曲(わいきょく)が黙認される業界体質が背景にある」と指摘する。一方で、「著名人の生涯にも、必ず『影』の部分がある。家族の同意を得る努力は大事だが、必須となれば良い面しか描けず、創作活動に支障が出る」(業界関係者)と懸念する声もある。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081223-00000015-yom-int