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2008年12月21日(日) 21時39分

不安抱え、進む復興 チェチェン産経新聞

 ロシア南部チェチェン共和国の首都グロズヌイの人々は、ようやく訪れた平和を満喫していた。独立をめぐる2度の紛争で廃虚と化した市街は建設ラッシュにわき、人々は親露派のラムザン・カディロフ共和国大統領(32)を惜しみなく称賛した。一方で、誘拐事件がいまなお頻発し、武装勢力に身を投じる若者が絶えないといった証言もある。プーチン首相とカディロフ氏の個人的関係に依存した復興はいつまで続くのか。懸念を抱えつつ安定への道を歩み始めた街から報告する。(グロズヌイ 佐藤貴生)

■偶像崇拝

 グロズヌイの目抜き通りを車で走ると、今年10月にできた巨大なモスク(イスラム教礼拝所)が姿を現した。欧州最大、1万人収容可能とされるモスクには、現大統領の父親で2004年5月に爆殺されたアフマド・カディロフ元大統領の名が冠されており、約2キロにわたり続くこの通りは10月、「勝利大通り」から「ウラジーミル・プーチン大通り」に改称された。

 欧州のどこかの街と見まごうばかりの真新しい中層住宅が並ぶ街中には、あちこちにカディロフ父子やプーチン首相の肖像画が掲げられ、買い物や学校帰りの男女でにぎわっていた。

 「想像できないだろうが、戦闘中は通りを戦車が行き交い、多くの死体が横たわっていた。ラムザンは平和を取り戻しただけでなく、この1、2年で街を着実に発展させた」(初老の男性)。人々はみな若き大統領をたたえ、「2度と戦火にさらされることはない」と異口同音に話した。

 ■懐柔戦略

 エリツィン、プーチン両政権は2度にわたる紛争で共和国を破壊し尽くした。20万人が死亡したといわれる戦闘とテロの時代が終わり、連邦政府は親露派チェチェン人を擁立した政権作りに腐心してきた。

 現地の非政府組織「戦略調査センター」によると、共和国政府の今年度の総予算は実収入の約10倍に当たる330億ルーブル(約1040億円)。経済復興を支えるべくモスクワから巨額の金が注ぎ込まれており、連邦政府の「チェチェン懐柔戦略」は仕上げの段階に入ったようにも見える。

 実際、外国人記者団と約15分間面談したカディロフ大統領は連邦政府の財政支援への謝意を強調し、「私が生きている限り、ロシアから独立することはない」と恭順の意を示した。

 街で話を聞いた人々は、一人として独立を支持しなかった。しかし、地元の大学に通うある学生は、「チェチェンには多くのタブーがある。独立の問題はその1つだ。検閲が多く、メディアの責任者は反政府的なニュースを欲しない」と本音を明かした。

 ■消える若者

 麻薬の流入と、その回し打ちによるエイズウイルス(HIV)の感染拡大、飲酒の蔓延(まんえん)が若者を取り巻く主要な問題となっており、政府当局者も解決に向けて取り組んでいることを認めた。しかし、水面下ではそれ以上に深刻な問題が起きている可能性がある。

 現地で活動する人権団体「メモリアル」のナタリア・エステミロワ氏は、「失業率が7割に達し、将来を悲観する若者たちが山へと姿を消している」と話した。山岳部にはイスラム武装勢力が潜伏し、職のない若者に毎月200−300ドルを支給して組織固めを進めているとの情報もある。

 さらに、別の人権活動家は「誘拐事件は月に5、6件は起きており、私はこれに連邦政府の一部勢力が関与していると考えている。不安定な情勢が続く限り武器弾薬の需要は絶えず、これで金をもうけている者がいるのだ」とし、「子供を戦闘で亡くした親たちは、プーチン政権期の苛烈(かれつ)な統治を決して忘れておらず、彼に対する敵意を持ち続けている」と付け加えた。

 チェチェンをめぐる闇は思いのほか、深く広がっているのかもしれない。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081221-00000547-san-int