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2008年12月20日(土) 08時34分

孤独死…代々木の借家から白骨遺体、6年以上前に死亡も気付かず産経新聞

 年の瀬。ビルのはざまにある東京・代々木の借家から、男性の白骨遺体が見つかった。病死とみられ、死後6年以上が過ぎているという。男性は借家で妻子と「幸せな家庭」を築いていたが、離婚して行方不明に。人知れず借家に戻って「孤独死」した。その後も誰に気づかれることなく、放置された。師走の悲しすぎる現実…。都会の人間関係の希薄さが浮かび上がる。(石井那納子)

■偶然の発見

 JR代々木駅から徒歩1分、雑居ビルに囲まれた谷間のような一角に借家はある。古い木造家屋の窓ガラスは割れ、屋内には落ち葉が舞い込んでいた。

 今月2日、地権者の男性が借家に入ると、居間にはゴミや本、衣類が散乱し、それらに埋もれるように、洋服を着たままの白骨遺体が見つかった。

 男性は約10年前から家賃を支払わなくなり、家具などを残して失踪(しっそう)したとみられていた。

 ところが今年9月に父親から借家を遺産相続した地権者が、借家を建て替えようと下見に訪れ、偶然白骨遺体を見つけたのだ。「事情がよく分からない」。地権者は困惑するばかり。

 警視庁原宿署は男性の弟を捜し出し、DNAの簡易鑑定を行った。すると、遺体は失踪していたはずの男性と判明した。

 昭和17年生まれ、生存していれば66歳。遺体の状況などから死後6〜8年経過しており、50代後半で亡くなったとみられる。

■離婚と失踪

 「なぜ、気づかなかったのか」。生まれたときから代々木に住み、男性と顔見知りだった自営業、石塚栄さん(70)は聞き込みに来た原宿署員から男性の死を伝えられ、後悔を募らせた。借家に男性が戻っていたことさえも気づいていなかった。

 石塚さんらの話からは男性のもの悲しい人生が浮かんでくる。

 男性は塗装工で、大工仕事も得意としていた。平成元年に結婚し、長女も生まれた。石塚さんが自宅の修繕を頼むと、長女を隣で遊ばせながら作業をしていた。「幸せな家庭を持つ父親そのものだった」

 ところが、9年に離婚し、一人娘は妻に引き取られていった。独り身になり間もなく、男性を見かけなくなったという。家賃の支払いも途絶えた。男性は家族と離ればなれになった失意を抱え一時、姿を消したのか…。

 約8年前には金を借りるため弟を訪ねたが、それ以降、親族とも音信不通に。捜索願が出されることもなかった。「幸せな家庭」を忘れられなかったのか、男性は借家に戻り、そして、ひっそりと死んだ。

 「誰にもみとられなかったのか。そう思うとやるせない」

 石塚さんは声を落とした。

 原宿署は元妻と連絡を取ったが、元妻は男性が亡くなり6年以上が経過していた事実を18歳になった娘に知らせていないという。

    ◇

 「孤独死」して何年も遺体が発見されないケースはこれまでにも散見されてきた。高齢化社会が進み、今後も同じ傾向が続くと危惧(きぐ)されている。

 独立行政法人「都市再生機構」が全国で管理する賃貸住宅での孤独死は平成11年度の207人から、18年度は517人と7年間で約2・5倍に急増している。

 厚生労働省の調べによると、東京23区では16年度の孤独死は2718人だった。

 16年4月には豊島区池袋のアパート解体現場から、布団の中で白骨化した遺体が発見された。遺体は昭和2年生まれの男性。室内には59年2月の新聞が残され、同じ月のカレンダーが張られていたことなどから、病死後、約20年間放置されていたとみられる。

 新宿区でも約10年前、アパートで死後5年経過した白骨遺体が見つかった。同区が13年に実施した調査によると、高齢者の14・6%が「近所とほとんど付き合いがない」と回答しており、孤独死予備軍の存在が浮き彫りになっている。

    ◇

 評論家の塩田丸男さんの話 「6年以上という長い間発見されずにいたことは信じがたいが、それが起きてしまうところに、東京をはじめ大都会が異常な状況にあると気付かなければいけない。親族が必死に探していたならまだしも、捜索願さえ出していないとは。孤独死は近代都市生活の盲点だ。人付き合いをわずらわしいと感じる若年層が増加傾向にある現状では、孤独死はひとり暮らしの高齢者だけの問題ではないといえる」

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