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2008年12月19日(金) 00時00分

「携帯電話0円」のカラクリ読売新聞

 「携帯電話の解約で高額な解約金を請求された」という苦情が増えている。ショップでは「持ち帰り0円」という甘い言葉で誘っているが、裏にはカラクリがある。携帯電話の販売制度をよく理解しておかないと、後で痛い目に遭う。(テクニカルライター・三上洋)

「解約で違約金」の苦情が急増

携帯電話の販売制度が複雑になったことで、ユーザーからの苦情が増えている。店頭での説明不足も指摘されている。(写真はイメージです。本文とは関係ありません)

 総務省近畿総合通信局が、携帯電話など電気通信サービスに関する相談や苦情が今年4月以降、すでに約620件あると発表した。昨年1年の相談件数(570件)を大きく上回っており、特に携帯電話の価格や料金に関する相談・苦情が増えている。

 内容としては「携帯電話を解約したら高額な違約金を請求された」「解約しようとしたら、端末のローン残額をすべて払えと言われた」「パソコン接続でインターネットを使って高額な請求がきたが、パソコン接続が定額の対象外とは知らなかった」といった相談・苦情が寄せられている。

 この相談・苦情をパッと見ると、詐欺や不当販売などのトラブルのように感じるが、実際には正当なものだ。いずれも携帯電話会社が決めた販売制度であり、違法はものではない。

 例えば「解約時の違約金」は、契約書にあるので問題なし。また「残額をすべて払えと言われた」は、ローン払いを利用したためで仕方のないところ。また「パソコン接続で高額請求」は、元々がパソコンに接続しての料金は定額プランの対象外なのでやむを得ない部分だ。つまりこれらの苦情は、ユーザーの理解不足によるものといえる。

 ただし携帯電話会社にも大きな責任がある。1つは店頭での説明不足だ。現在の携帯電話販売制度は複雑怪奇であり、ユーザーにきちんと説明するのに時間がかかる。それを怠って販売してしまったために、このような苦情が発生してしまう。もう1つは、携帯電話の販売制度そのものにある。ユーザーにわかりにくい複雑怪奇な制度を作ってしまったことも大きな問題だ。

 近畿総合通信局では「消費者はどれが重要な契約条項なのか、わからない場合が多い。高齢者などのいわゆる情報弱者に対しても、携帯電話会社がきちんと説明する努力が必要だ」とコメントしている。

「携帯電話0円」「実質負担金」のカラクリ

 ではユーザーは携帯電話購入時に、どんなことに注意すればいいのだろうか。甘い言葉にはカラクリがある。そのカラクリを3ポイントに整理してみた。

●「持ち帰り0円」のカラクリ>
 店頭で販売されている携帯電話のほとんどが、「頭金0円」「持ち帰り0円」として販売されている。これはローン払い(割賦制度)によるもので、購入時の負担はゼロだが、そのあと24か月に渡って端末代金をローン払いしていくことになる。もし途中解約すれば、ローンの残債を払わなければならない。

 現在の携帯電話は以前よりも高くなっており、新製品では5万円以上する機種も多い。ローン期間中に携帯電話会社を解約すれば、残債を一括払いする必要があり、場合によっては3〜4万円の負担になってしまう。ローンは2年間が中心なので、2年間は同じ携帯電話を使い続けると思ったほうがいい。

●「実質負担金」のカラクリ
 携帯電話の値札は複雑怪奇だ。「頭金0円、毎月のローン2,100円、割引840円、実質負担金30,240円」のように、わけがわからない表示になっている。

 この場合、店頭では「実質負担金は30,240円ですから以前と同じですよ」という説明をしがちだが、ここに落とし穴がある。「実質負担金」という名前だが、もし途中解約した場合、この額では収まらないのだ。というのは、携帯電話会社を解約すると料金割引がなくなってしまうため。料金割引を前提とした「実質負担金」なので、割引がなくなれば負担が一気に高くなる。極端な話、実質負担金が3万円前後でも、すぐに解約したら5万円以上を返済しなければいけないこともある。

●「料金半額」のカラクリ
 各社とも「料金半額」をうたった割引制度を用意している。加入するだけで毎月のプラン基本料が半額になるため、ほとんどの人が加入する。ただしこの割引は、2年間の契約を前提とするものだ。

 毎月のプラン基本料を50%割引にする代わりとして、途中解約すると約1万円の契約解除料(キャンセル料)を払う必要がある。この割引制度は自動更新されるため、特定の1か月を除き、解約するといつでも1万円の契約解除料が発生してしまうのだ。上の端末価格のローンとは別物であり、ローン残債+契約解除料という二重の負担になるケースもある。

携帯電話は「2年縛り」と心得るべし
 この面倒なカラクリを考えずに済む方法が1つだけある。それは「携帯電話は2年縛り。途中での機種変更・解約はできない」と考えること。上の3つのカラクリは、いずれも2年未満で機種変更・解約した場合であり、同じ携帯電話を2年間使い続ければ、問題は発生しない。2年以上使った場合に、最も負担が少なくなるように考えられた制度だからだ。2年未満の解約でもトラブルが起きない販売制度もあるが、こちらは逆に長く使うと損をする制度なので、選ぶ人は少ない。

 年末や年度末に、携帯電話を買い換えようと思っているユーザーも多いだろう。これから買い換える人は「2年縛り」を頭に入れて、長く使えそうな機種を選びたい。同じ携帯電話を最低2年間は使い続けることになるから、慎重にチェックすることが重要だ。

 総務省では、複雑になった携帯電話料金をわかりやすくするための有識者懇談会を設置している。各社のサービスを簡単に比較するシステムを作る、統一のルールを作るなどを検討している。また近畿総合通信局では、来年3月に「電気通信サービス利用者懇談会(仮称)」を設置し、ユーザーからの相談や苦情を元に携帯電話会社に対して改善の要請をしていきたい、としている。ユーザーにわかりやすい制度にするために、総務省が各社に働きかけることを期待したい。

http://www.yomiuri.co.jp/net/security/goshinjyutsu/20081219nt17.htm