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2008年12月16日(火) 14時51分

<ギリシャ>続く学生デモ 軍政打倒の記憶、下地に毎日新聞

 【アテネ藤原章生】若者主体のギリシャの反政府行動は雨の週末を挟んだ15日も、朝からアテネ市街地でデモが続いた。だが「運動は下火。社会の支持がないから」と、アナキスト(無政府主義者)を名乗る若者は言う。かつて軍政(67〜74年)を倒した学生運動の記憶を引きずり「反権威を好むギリシャ人特有の現象」と識者は見ている。

 14日夕、彼らが「解放区」と呼ぶ活動拠点、中心街のアテネ大工芸学部の正門広場には、黒い服装の男女学生約100人が出入りしていた。たき火の輪に加わると、学生たちは「写真はだめですよ」「報道陣も我々の敵ですから気をつけてください」と英語でこちらを気遣う。大学に泊まり込んでいる学生がパンやチョコレート、チップスなどを大量に買い込み戻ってきた。

 軍政末期の73年、軍がこの工芸学部に進入、22人の死者を出した。このためその後の憲法改正で、軍、警察は大学、学校に立ち入れなくなった。

 「我々はアナキストですから、今の資本主義、政治システムすべてを壊すつもりです。だから野党にも選挙にも反対です」。茶色の縁のメガネに薄い無精ひげのマイケルさん(23)は少し話すとこう漏らした。「我々はリーダーを持たない主義だから、まとまらない。ここには、毛沢東主義者、ギリシャの伝統左翼、アナキストといろいろいて、内部争いも多いんです」

 「デモは続くの」と問うと「そうは思わない。社会の支持がないから」と小さな声で答えた。すると、隣の女性(26)が「シッ」と注意した。周りに聞こえるとまずいと言うのだ。バクーニンなどロシアの文献を17歳で読みアナキストに加わったというが、どんな社会を目指すのか、その戦略については「我々のイデオロギーは英語ではうまく説明できないから」と答えた。

 「カラマンリス(政権)は汚職だらけで、国の金を盗んでいる」「銀行は我々の預金を返さないつもりだ」「警官はみな人殺し」。デモ参加者の声も、粗削りな言葉が目立つ。

 携帯電話を通じて集まる若者のデモは、一部若者の投石や火炎瓶投げですぐに乱れる。襲撃相手は警察や国会だけでなく、高級ホテル、レストラン、ブランド店、新車店など、若者が求めがちなものにも向けられる。

 無秩序な行動パターンは今後、他の南欧諸国に広がるのか。

 イタリアの政治評論家、セルジオ・ロマーノさん(79)は「95年と05年のパリのゼネストや暴動は人種問題が絡み根が深かったが、10日ほどで終わり、周辺国に広がらなかった。イタリアでは今年11月、教育改革に抗議する大規模なデモがあったが、平和的だった。欧州各国はどこも経済はひどいが、暴動はギリシャに限定されている」と話す。

 ただ、アテネのジャーナリズム学校講師、パナジオティドウさん(31)は「アナキストの運動はネット映像を見た者が模倣する形で広がってきた。『即暴動』というこの形の運動は今後、欧州各国に広がる」と話す。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081216-00000013-maiall-int