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2008年12月14日(日) 00時00分

苦境知り戸惑い 模擬裁判で実感<4>読売新聞

被害者、遺族が意見陳述 
法廷中央で裁判官や裁判員に語りかけるように最終弁論を行う弁護士(2日、地裁で)

 まるで、陪審員相手にとうとうと主張を述べる米国の裁判のようだった。12月2日に地裁で行われた裁判員制度の模擬裁判。松本啓介弁護士(58)はおもむろに法廷中央に進み出て、裁判官3人と裁判員6人の並ぶ正面を見据え、危険運転致死罪に問われた被告の最終弁論を始めた。

 「被告人のしたことは許されない。しかし、深く反省している……」

 現行の刑事裁判の最終弁論では、弁護士は席から離れずに用意した書面を読み上げるのが通例。だが、来年5月の裁判員制度開始で、米映画さながらの、こんな場面が増えるはずだ。

 地裁が裁判員役に一般市民を呼んで開いた模擬裁判は、3、7、12月の計3回。3月は被告の責任能力の有無、7月には事実認定、12月は犯罪被害者や遺族が被告への質問や求刑への意見陳述をできる「被害者参加制度」を主眼にした。

 裁判の様子は大きく変わった。裁判員を説得しようと、弁護士や検察官は語りかける以外にも、モニターに現場の写真や図面を映し、争点を図で示して視覚にも強く訴えた。松本弁護士は「裁判員に主張したいことが伝わったのか、反応を確かめながら弁論できる」と振り返る。

 殺人事件を扱った3月の模擬裁判では、凶器の包丁代わりの刃物形の厚紙や遺体の傷口に似せた写真が証拠品として裁判員に示され、裁判員たちはまじまじと見つめた。

 7月には、強盗事件の被害者の手の指の骨折が被告の暴行によるかどうかで、検察側、弁護側双方が主張を展開。裁判員の男性会社員(55)は「被害者の『犯人ともみ合った時、指に激痛が走った』との証言はリアルで、信用できると感じた」と感想を述べた。

 12月は、飲酒運転の車に衝突されて死亡した被害者の妻役を女性弁護士が熱演し「借金で悩んでいたことが飲酒運転の理由になるのか」などと被告に激しく詰め寄った。被告の母も証言台に立って、家計を支えてきた被告の逮捕で収入が激減し、2人の孫は短大を退学したり、大学進学をあきらめたりしたと明かし「一家心中を考えたほど悩んだ」と声を絞り出した。

 裁判員たちはメモを取りながら聞き入り、時には被告や証人に質問をして情状面を確認。裁判長は、何度も左右に座る裁判員に視線を向け、理解度を確かめながら裁判を進めた。

 審理終了後、裁判員の女性看護師(43)は「遺族の苦しみと被告家族の苦境が目に浮かび、判断が難しい」と戸惑いを見せ、無職男性(71)は「(中立の立場で考えようとしても)つい被害者側に同情してしまう。国民が司法に参加する意義はあると思うが、素人の私たちに人を裁くのは難しいと実感した」と話した。

 この事件では、検察側が懲役8年を求刑、遺族に付き添った弁護士(被害者参加弁護士)は懲役12年を求める意見を述べた。判決は、裁判官と裁判員が別室で行う評議で決まる。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tottori/feature/tottori1228914726853_02/news/20081213-OYT8T00652.htm