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2008年12月14日(日) 22時32分

元家裁判事のつぶやき 「試験観察中に再非行」の衝撃産経新聞

 地域の不良による集団乱闘の現場を通り掛かった少年が、間違われていきなり殴られ、カッとなって殴り倒したら、相手は地面で頭を強打し脳内出血で死亡してしまった。

 加害者は試験観察中の高校生で、被害者は調査官が以前に担当した少年(暴走事件で保護観察中)であった。

 3年もたってから分かったことだが、その調査官は、以来試験観察を避けるようになった。理屈を超えて、感覚的に試験観察を受け付けられなくなったらしい。つまり「怖い…」ということだったのだろう。

 あるとき、10人ほどの調査官の試験観察手持ち件数を調べたら、みな3〜4件持っているのに、その調査官だけがゼロ件で、しかも3年間そうだったので、ピンときた。

 人の命は取り返しがつかないものだから、調査官が試験観察を避け続けた気持ちはよくわかった。また、その調査官はどしどし少年院に送っていたわけでもなく、保護観察官に殊遇を依頼したり、付添人弁護士に保護観察中のケアを頼んだり、地域の不良と切り離すため家族ぐるみの転居を促したりと、きめ細かい援助をしていた。さらに、少年院へ送った子どもについては必ず動向視察に行き、裁判官にその報告をくれていた。

 しかし、試験観察は裁判官の勉強にもなる魅力あふれる制度である。だから、以来その調査官が「試験観察相当」の意見書を提出していなくても、裁判官の判断で、ボツボツと試験観察を命じた。1年かかって、手持ち件数を4件にまで引き上げた。

 試験観察中の重大事件(特に人命にかかわるもの)の再非行が、担当調査官に与える衝撃の強さと深さを理解していただけたことと思う。

 さりとて、再非行の内容が万引程度であれば、家裁は何の痛痒(つうよう)も感じていないというわけでもない。

 小さなコンビニで中学生の万引がはやってつぶれてしまったという悲惨な例も知っている。スーパーのレジ係をしているお母さんは、お客さんには笑顔で「ありがとうございます」といっているだけに、万引されると「心が傷つく」と息子に言って聞かせる。また、買い物に行って、店内を万引犯人がウロウロしているかもしれないと思うだけでも気分が悪いと語る親も多い。(弁護士、元家裁判事 井垣康弘)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081214-00000547-san-soci