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2008年12月14日(日) 18時47分

願いむなしく取り壊された昭和の名建築 大阪・諏訪森会館産経新聞

 保存を求める声が最後まであったが、大阪府堺市にあるモダニズムの名建築・諏訪森会館は12月に入って呆気なく解体された。

 昭和48年、近くのルネサンス風の名建築・旧浜寺町役場(大正13年)が解体されたのだから、せめてこれぐらいは残してほしいという切なる願いは聞き入れられなかった。

 昭和30年代後半から近代建築の生(保存)と死(解体)を見続けてきて考えることは多い。当時に比べて近代建築が登録文化財制度の導入などで保存されるようになったのは喜ばしいことである。しかし一方で、このような文化財クラスの名建築が危険だと言われ、安易に解体される現実は悲しい限りである。

 それも今回のように、歴史や文化を守るべき立場の教育委員会が自らの手によって解体したことは許し難いことである。

 老朽化して危険だからと言って解体する前に、専門家の「補強すれば再利用できる」という意見を何故聞かなかったのか。まず解体ありきで強行した感さえある。そのうえ一部の人に話しただけで、地域全体には取り壊しの説明はしていなかった。地元からの寄付を受けた大切な建物なのだから、もう少し地元と話し合いを持つべきであった。

 大変な時代なので歴史建築の保存よりもっと大切なことがあると考える人も多い。そんな中、本連載で取り上げた直後に諏訪森会館は解体されてしまった。一部から出ている責任追及の声に、堺市教委は誠実に答えるべきである。またそのためにも近くに現存する江戸期の蔵屋敷(大阪・中之島から移築)や明治期の西洋館などの歴史遺産の再評価と保全・再生について真剣に考えるべきである。(明治建築研究会・戦争遺構研究会代表 柴田正己)

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