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2008年12月14日(日) 08時04分

少年審判の「扉」開いた 遺族ら傍聴あすから可能産経新聞

 原則非公開とされてきた少年審判を事件の被害者や遺族が傍聴できるようになる改正少年法が15日、施行される。刑事裁判に被害者が参加できる「被害者参加制度」も今月1日に始まり、急速に進む犯罪被害者支援。しかし、少年審判の傍聴には「加害少年が萎縮(いしゅく)する」という声も根強い。閉ざされてきた少年審判は法改正でどう変わるのか。

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 ■知る権利に期待

 「法整備が進み、権利確立に向けた基盤は整った。まずは第一歩だ」

 こう語るのは山口県光市で平成11年、妻と生後11カ月の長女を殺害された本村洋さん。今月1日、犯罪被害者週間の集まりで講演し、被害者参加制度と少年法改正を評価した。事件当時、容疑者の少年は18歳。本村さんは傍聴すらできなかった。

 少年法第1条には「この法律は少年の健全な育成を期し…」とある。未熟な少年が反省し更生できるようにという考え方だが、平成9年の神戸連続児童殺傷事件などを受け、刑罰の適用年齢が16歳以上から14歳以上に引き下げられるなど改正が進んできた。今回の改正は、被害者らの「真相を知りたい」という思いにこたえた。

 傍聴が可能になることに、遺族らはおおむね期待を寄せている。

 16歳の長男が同じ16歳の少年に暴行され死亡した「少年犯罪被害当事者の会」代表、武るり子さんは「これまでは遺族が見えない所でいろいろなことが片づけられ、『もどかしさ』という言葉では言い尽くせない思いでした。見届けられるのは大違い」と傍聴の意義を話す。

 武さんは「(少年が)事件の遺族と向き合うことでやったことの重みを初めて実感し、反省を深められる」と、更生のために遺族傍聴は必要だと訴える。

 ■トラブル回避策も

 被害者らを目の前にした少年が萎縮して真実を話せなくなったり、遺族らとトラブルが起きたりする可能性もある。このため、東京家裁の審判廷には、少年の視界に遺族らが入りにくいよう、席が後方に設けられた。被害者らは少年より後に入廷、先に退廷するよう配慮もされる。

 審判では、すでに12年の改正で被害者らの意見陳述が認められている。傍聴にまで広がることに、日本弁護士連合会「子どもの権利委員会」幹事の山崎健一弁護士は「陳述が認められただけで問題は起きた」と明かす。山崎弁護士らの調査では、審判で遺族らが少年をののしったり、少年のプライバシーをネットに書き込んだりした例があった。少年法は、審判で見聞きしたことや実名を漏らすことを禁じている。

 ■変わる更生の場

 少年の更生の場と位置づけられてきた審判に、遺族の傍聴はそぐわないという意見は根強い。

 山崎弁護士は「被害者を意識すると、裁判官も少年に理解や共感を示しながらの説諭や指導がしにくくなり、更生を促す働きかけが難しくなる」と、審判そのものが変わってしまうことを懸念している。

 千葉大法科大学院の後藤弘子教授も「被害者という対立する人の傍聴で、教育の効果が阻害され、審判が違った形になるのではないか」と話す。少年と被害者の双方への配慮が求められる裁判官の負担も指摘し、「少年審判は、被害者のためではなく、少年の更生のためにあるということを被害者にも理解してもらうことが大事」と訴える。

 こうした声に、日弁連犯罪被害者支援委員会の副委員長、番敦子弁護士は「少年審判は刑事事件の裁判とは違い、背景や問題点を丁寧に話すので、傍聴者には物足りない面もあり、逆に傷つくかもしれない。それでも、『知りたいこと』が分からなかった遺族らにとって、それが分かるだけでも前進」と期待を込める。

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【用語解説】少年審判と傍聴

 少年審判は家庭裁判所が未成年の非行事実を判断し、処遇を決める手続き。少年法に定められ、原則は非公開。少年院や児童自立支援施設送致などの保護処分や不処分を決める。刑事処分が必要と判断されると、改めて検察官に送致(逆送致)される。12月15日施行の改正少年法で傍聴の対象になるのは、加害少年が12歳以上で殺人や業務上過失致死など被害者を死傷させた事件で、被害者や遺族が希望し、家裁が許可すれば可能。家裁は判断に当たり、少年の付添人弁護士からも意見を聴く。

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