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2008年12月13日(土) 07時13分

参院宿舎移転は白紙 参院・都・区会談決裂東京新聞

 参院清水谷議員宿舎(東京都千代田区紀尾井町)の移転・建て替え問題で、参院の西岡武夫議院運営委員長は十二日、移転計画を白紙にすると発表した。移転予定地の森林保護を理由に反対している石原慎太郎東京都知事らと同夜、都内で会談したが決裂し、計画を断念した。移転問題は一年半以上にわたり棚上げ状態だったが「都心に残る貴重な緑の保護」という石原知事の主張に、参院側が折れる形で決着した。

 会談で西岡氏は、予定地への移転を前提として緑地をより多く残し、建物を低くする見直し案の了承を求めたが、石原知事は拒否。西岡氏は、終了後の記者会見で「現計画を白紙に戻す。(建て替えは)必要で、新しい案の具体化は慎重に進めたい」と表明。現在地での建て替えには否定的な考えを示した。

 これに先立ち石原知事は同日の定例記者会見で、自民党の青木幹雄・前参院議員会長と十一日に会談し「白紙にしましょう」と提案を受けたことを明らかにした。石原知事は、現在地での建て替えなど、都側としての五つ程度の代替案を用意しているとも述べた。

 「緑地を破壊して宿舎を建てるのは悪いと、臆(おく)せず言ってよかった」。昨年一月から地元の人たちと反対運動を続けてきた梶浦淳代さん(63)は、計画の白紙撤回を知り、声を弾ませた。「公共工事は止められないと思っていたが、政治判断で計画は白紙になった。感謝したい」

 梶浦さんたちは、紀尾井町のシンボルでもある緑地を守るため、全国から一万五千を超える建設反対の署名を集めて参院や都に届けた。東京地裁に、計画差し止めや工事禁止仮処分申請、参院の個人情報漏えいに対する損害賠償(係争中)という訴えも起こした。

 十二日昼には、新宿区のホテルで開かれた石原知事の後援会の昼食会に顔を出し、じかに要請もしたという。

 問題決着が再び越年するのを覚悟していた中での朗報に、梶浦さんは「今後は緑地を民間による開発から守り、憩いの場として国民に開放してくれるよう、国や都、区は尽力してほしい」と胸をなで下ろしていた。

■都心の緑保護 知事公約、前途は多難

◆解説

 参院清水谷議員宿舎の移転予定地は、東京都が指定する風致地区で、建設には都知事との協議が必要だ。移転に反対していた地元住民はこれを根拠に、昨年春の都知事選で、候補者らに協議に応じないよう訴えた。しかし三選した石原知事は当時、この問題に関心を示していなかった。

 ところが石原知事は四人目の副知事に登用した作家の猪瀬直樹氏の進言などを受けて、現地の森林保護を“公約”。にわかに都政と国政を巻き込む政治課題に発展した。

 石原知事は当初、緑地を増やすことなどを条件に移転を容認する方針だったが、最終的に拒否を貫いた。

 ただ現計画が白紙になっても、予定地の緑地保護の先行きは見えない。国有財産をさら地のまま残すことの是非も問われるし、民間に売却されれば、伐採させないことは不可能に近い。

 公園にしようにも、整備・管理の費用負担をどこがするかなど課題は山積している。「江戸時代から残る都心の貴重な緑」(地元住民)を守れるかどうか、前途は多難だ。 (榎本哲也)

 <参院清水谷宿舎移転問題> 参院が老朽化した同宿舎を、ほぼ隣接する国有地に移転して建て替える計画を立てたが、都心としては貴重な移転予定地の森林保護を理由に、周辺住民が反対運動を展開。昨年9月、石原慎太郎東京都知事が「この森をつぶすのは反対」と表明。予定地は風致地区のため建設に必要な都知事との協議が行えず、同7月の予定だった着工が延期されていた。今年11月、参院は宿舎を16階建てから14階建てに低くし、緑地をより多く残す見直し案を都に提示、協議が再開された。

(東京新聞)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2008121390071327.html