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2008年12月13日(土) 00時00分

企業「出勤扱い」に農家・商店は困惑<3>読売新聞

仕事休む支援態勢は? 
乳牛の世話に追われる酪農家。裁判のためでも外出しにくい(鳥取市鹿野町で)

 裁判員になると、裁判のために3〜5日間は仕事を休まなければならない。しかし、同僚らに気兼ねを感じる人もいるだろう。裁判員が気持ちよく法廷に行くためには、職場など周囲の協力が不可欠だ。県内の企業は、裁判員や裁判員候補者のために有給休暇を設けるなど、支援態勢を整え始めている。

 鳥取銀行(本店・鳥取市)は昨年、裁判員・候補者向けの「特別休暇制度」を新設。正規行員に有休を与え、パートの行員には通常の勤務時間分の給料を支払う。同銀行は「行員である前に社会の一員。積極参加できるように制度を整えた。周囲が仕事をサポートすることで多忙な行員にも裁判に出てもらう」という。

 山陰合同銀行(同・松江市)も「公務休暇」を定め、裁判員として法廷に通う期間は出勤扱いに。JA鳥取いなば(鳥取市)は有休の特別休暇で対応する。米子市に工場を持つ王子製紙(東京)も来春までに、休暇制度を新設する予定だ。

 一方、休日もなく、家畜や農作物の世話をしなければならない酪農家や農家は頭を抱える。

 酪農家は、毎日の搾乳のほか、乳牛の餌になる牧草やトウモロコシの栽培がある。4、5月は牧草の刈り取りで特に多忙だ。208牧場加盟の大山乳業農業協同組合(琴浦町)は、冠婚葬祭時などに代わりの作業者を派遣する「ヘルパー制度」の利用を裁判員制度でも呼びかける方針。しかし、1日約2万円の費用は自己負担で、裁判員の日当1万円では埋まらない。

 6人で乳牛120頭の世話をする鳥取市鹿野町の酪農家(60)は「損をしてまで裁判所に行くのかと思う。費用分は出してほしい」と訴える。

 梨農家の場合、収穫期の秋はもちろん、人工交配時期の4〜6月も忙しい。JAによると、交配のタイミングを逸すれば収穫減の恐れもあるという。

 地裁は今年初め、県内の農協や漁協など8か所を巡り、1年間の作業について詳しく聞き取った。渡辺明彦・総務課長は「作業スケジュールを知らないと、辞退申請が出された時に、認めていいのか判断がつかないので」と説明する。

 個人商店も困っている。父親と2人で店を切り盛りする鳥取市の理容師(47)は「書き入れ時に出廷すると、収益に大きく響く。私を指定して来る客もおり『父だけで店をやれるから』という問題ではない」と不安がる。

 幼い子どもの親が裁判員になったら、子どもの世話はどうなるのか。地裁は、一時保育をする保育所1か所を地裁そばに確保しているが、利用料は自己負担になるという。

 地裁の渡辺総務課長は「裁判員候補者には、裁判に参加してもらえるよう丁寧に説明したい」と言い「『自腹を切ってまで出廷したくない』との意見はもっともだが、日当上限1万円は法律で定められ、それ以上は払えない。今後の制度改正の参考意見としたい」としている。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tottori/feature/tottori1228914726853_02/news/20081212-OYT8T00688.htm