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2008年12月13日(土) 22時18分

宮廷の美意識浮き彫り 気品漂う『天下一』の笑顔産経新聞

 春日大社は舞楽面の宝庫としても知られ、近年奉納されたものを含め、18種79面を数える。面の種類・数量ともに全国的に最たるものがあり、総じて平安から江戸に至る各時代の面を伝え、いずれも姿が整って美しく、優品ぞろい。全国に残る舞楽面の中で基準作に挙げられるものが多い。

 この中で特筆すべきは、「天下一越前」の烙印(らくいん)が面裏に残る採桑老(さいそうろう)、二ノ舞、還城楽(けんじょうらく)、陵王の4面であろう。寛文9(1669)年に後水尾(ごみずのお)、明正(めいしょう)、後西、霊元各天皇から奉納された舞楽面で、「天下一」の名にふさわしく、気品が漂い、洗練された美しさを兼備した優れた面である。

 これらの面は古くからのものと比べると、しわや血管、筋肉の表現方法が意匠化され、その分、力感はやや薄れるものの、華麗なる色彩美にあふれており、宮廷の美意識が浮かび上がってくるかのようである。

 本品は、明正天皇から奉納された二ノ舞に使用する咲面(えみめん)である。見る側を何ともうれしくさせるにこやかな顔で、額から目、ほおにかけてのしわを左右対称の同心円状に幾重にも刻み、しかもまぶたのしわと同じ曲線で目をくり抜いているところなどは、時代を超えてモダンすら感じさせる。他の咲面が滑稽(こっけい)味あふれる老爺(ろうや)顔であるのに比べ、気品漂う風貌(ふうぼう)なのが、宮中からの奉納にふさわしい。

 二ノ舞は老爺顔の咲面と老婆顔の腫面(はれめん)の2面を1組としている。安摩(あま)とセットで舞われることが多く、安摩に続いて舞台に登場し、2人で舞をまねようとするが、まねられず滑稽なものになってしまうといったユニークな内容から、「二の舞を踏む」の語源といわれている。

 当社では、この咲面を胡徳楽(ことくらく)の瓶子取(へいしとり)の面として使用している。胡徳楽は稀曲(ききょく)の一つとしてめったに上演する機会のない舞楽であったが、数年前の宮崎駿監督の映画「千と千尋の神隠し」に、瓶子取の主人役が付ける面からヒントを得た「春日さま」なるキャラクターが登場し、一躍注目をあびるようになった。(春日大社宝物殿学芸員、秋田真吾)

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