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2008年12月13日(土) 01時59分

「被害者参加」申請へ 殺害された江戸川区の元会社役員妻 「自分自身納得させたい」 産経新聞

 静岡県富士市の山林で平成18年10月、東京都江戸川区の元運送会社役員、栩野(とちの)雅晴さん=当時(66)=が遺体で見つかった殺人・死体遺棄事件で、栩野さんの妻(36)が刑事裁判の法廷で被告人質問や求刑などができる「被害者参加制度」への参加申請に向けて準備を進めていることが12日、分かった。今月1日に始まったばかりの同制度で裁判に参加する決意を固めた妻は「法廷に立って自分自身を納得させないと前には進めない」と胸の内を明かした。

 事件をめぐっては、警視庁と静岡県警の合同捜査本部が同社社長の寺岡誠吉容疑者(71)ら6人を殺人と死体遺棄容疑で逮捕。調べにいずれも容疑を認めており、勾留(こうりゅう)期限が満期を迎える今月24日にも起訴され、同制度の対象となる見通しだ。

 「なぜ主人が殺されなければいけなかったのかを質問したい」と話す栩野さんの妻は12日、同制度への参加の意向を固め、今後の手続きに向けて弁護士を選んだ。弁護士は起訴後、検察当局を通じて裁判所に参加申請し、裁判所が認めるかどうかを判断する。

 捜査本部の調べでは、栩野さんは10年以上前から寺岡容疑者と投機目的の不動産取引で多額の利益を上げており、寺岡容疑者はその見返りとして16年に栩野さんを役員に迎え入れた。不動産取引などで衝突することもあったが、妻は「家族ぐるみで付き合う友人だったし、寺岡容疑者の関与は疑わなかった」。

 寺岡容疑者は事件後、捜索願の提出や遺体の確認、火葬といった場面で妻に寄り添い、「絶対にホシ(犯人)は逮捕されるからね」と言い聞かせて励ますこともあった。

 しかし、実際には寺岡容疑者が実行犯に殺害を依頼しており、事件の約1年前には殺害を決意したとみられることも捜査で明らかになっている。「栩野さんに会社を乗っ取られると思った。会社や金のことで苦しめられた」などと動機も供述しているという。

 寺岡容疑者が素知らぬ顔で身近にいたことに、妻は「人間のことが全く信じられなくなった」と動揺を隠さない。妻は今月、被害者参加制度のシンポジウムに関する報道を見て、自ら被害者参加人として法廷に立つことを決めた。「どういう気持ちで私のそばにいたのか…」。寺岡容疑者の目を見据え、問いただしたいと思っているという。

     ◇

 元警察官僚で被害者参加制度に詳しい後藤啓二弁護士の話「刑事裁判ではこれまで、被告人が法廷で被害者に責任をなすりつけたり、うその証言をした場合でも、遺族は傍聴席で悔しい思いをしながら聞いているだけだった。特に、殺人事件では『死人に口なし』で、遺族にとっては到底納得できない証言がそのまま採用されてしまうなどの事例もあった。遺族が制度を積極的に活用し、法廷に入って直接被告人や証人に問いただすことで、真実が解明され、より適正な処罰がなされるとともに、被害者の名誉回復が期待される」

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