記事登録
2008年12月13日(土) 20時40分

「麻生構想」狙いは日中韓の内需拡大 外交理念とのギャップも産経新聞

 麻生太郎首相の地元・福岡で開かれた日中韓首脳会議で、世界的な経済・金融危機に向け、GDP(国内総生産)総計で英独仏に匹敵する3カ国が共同対処の方針を打ち出した意義は大きい。「日中韓が協調して内需拡大することで世界恐慌脱却の先鞭(せんべん)をつける」という首相が描いた「処方箋(せん)」は実現に向け動き出した。ただ、経済・金融政策を最優先させたことは日中間に横たわる領土や歴史認識問題などの「棚上げ」を意味する。自ら提唱した「自由と繁栄の弧」構想との齟齬(そご)も広がりかねず、ジレンマは今後も続きそうだ。   (石橋文登)

 「3カ国会議は歴史の必然だ。3カ国が未来志向で対話していくことは画期的な意味がある」

 13日夕、中国の温家宝首相、韓国の李明博大統領の真ん中で記者会見に応じた麻生首相は成果を強調した。

 中国首脳が共同会見に応じるのは珍しい。温首相は会談で四川大地震への日本の支援に「中国13億人を感動させた」と賛辞を贈り、歴史認識問題には一切触れなかった。中国が市場経済導入後初めて直面する恐慌にいかに困惑し、経済・金融面での日本への期待の大きさを示したといえる。

 麻生首相が描いたのは、日中韓が連携して内需拡大と貿易活発化を進めることで不況から先に脱却し、次第にアジア全体を広げていく構想だ。同時に3カ国が米ドルの基軸体制堅持を打ち出すことで、国際金融市場の安定や米国の景気回復につながると考えた。戦前の世界恐慌での「ブロック経済」も思わせるが、ひそかな勝算はあった。

 10、11月の胡錦濤中国国家主席との2度の会談で、胡主席が麻生首相に世界経済の現状分析を求めてきたからだ。国際社会では「胡主席とは経済問題を議題にしない」のが“暗黙のルール”といわれるが、麻生首相が内需拡大とドル基軸体制の重要性を説くと、胡主席は側近にメモを取らせ、最後は「サンキュー」と肩をたたいてきたという。

 13日の温首相との会談でも、経済論議が3分の1を占め、日本の景気対策についての説明に温氏は「非常に勉強になりました」と述べたという。

 だが、日中間には尖閣諸島や東シナ海をめぐる問題に加え、チベット人権、食の安全の問題もあり、国民の対中感情は悪化している。これらを棚上げにしていては外交ポイントにならない。民主主義や基本的人権など4つの価値観を重視する「価値観外交」の提唱者として、理念と現実のギャップをどう埋めていくかが問われている。【関連記事】

中国の尖閣・調査船進入で麻生首相が抗議 日中韓首脳会議
巧妙な中国、国内引き締めに利用 日中韓首脳会談
福岡で日韓首脳会談 金融危機や北朝鮮対応で連携確認
麻生太郎(68) 首相 「大胆に」緊急対策23兆円
首相会見「消費税上げ準備に着手」 「3年後」の方針は不変

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081213-00000559-san-pol