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2008年12月13日(土) 20時37分

「賠償交渉の会」とJR西の初会合、14日に 福知山線脱線事故産経新聞

 乗客106人が犠牲になった平成17年4月のJR福知山線脱線事故の補償問題をめぐり、遺族らでつくる「賠償交渉の会」が14日、大阪市内でJR西日本との初会合を開く。自動車人身事故の基準をもとに個別の示談交渉を進めるJR西に同会は反発、事故を起こした企業の「社会的責任」をキーワードに新たな賠償の枠組みを提案している。まだ7割以上の遺族が示談に至っていないとみられ、最愛の家族の命を金銭に換えるプロセスの先行きはいまだ不透明だ。

 ■従来基準に不満

 補償交渉でJR西は、一般的な自動車人身事故などで使われる「逸失利益」と「慰謝料」を柱とした基準を採用している。

 逸失利益は通常、厚生労働省が主に学歴や性別、年代別で算出した平均年間賃金基準に照らして犠牲者の年間収入額を設定、日常生活費として4割を引き、就労可能年齢(上限67歳)の残り年数をかけて算定する。JR西は事故の重大性を考慮し、従来基準よりも慰謝料などの金額を上乗せする方針を決め、遺族らとの交渉を個別に進めている。

 示談成立の件数については、昨年末に山崎正夫・JR西社長が「全体の2割超と成立した」と述べた以降、具体的な数字は明らかにしていない。

 これに対し、「通常の交通事故と同じ『土俵』で処理してほしくない」と一部の遺族から不満の声が上がり、今年5月、犠牲者約30人の遺族が参加して賠償交渉の会が結成された。

 同会メンバーで、妻を亡くした男性は「鉄道に乗るとき、自動車や飛行機のようにシートベルトを付けたり保険に入ったりしない。金額ではなく、機械的に既存の方式を当てはめられることに納得いかない」と不信感をあらわにする。

 ■再発防止を

 同会が提案しているのは、事故を起こした責任の所在を明確にした上で、従来の人身事故の基準にとらわれずに遺族の気持ちに沿って交渉を進めることだ。

 具体的には、年齢や性別、社会的立場に関係なく、「かけがえのない命」に対する一律的な賠償を提言。事故を起こした社会的責任として、鉄道の安全を研究する基金や制度の設立なども求めている。

 金額の多寡ではなく、従来の補償の枠組みに異議を唱えているのだ。

 その根底には、今回の事故は「会社の体質が引き起こした組織的なもの」という認識がある。

 同会の幹事で、妻と妹を亡くした浅野弥三一さん(66)は「JR西が安全な会社になるために、ただお金を積んで終わりという形にしてはいけない。交渉を通じてJR西の安全を見通すことで、初めて亡くなった者を弔ってやれる」と話す。

 ■事故の総括は

 「申し入れには真摯(しんし)に対応していきたいが…」

 JR西のある幹部は同会の提案に苦い表情を浮かべた。「これまで公平性を保つために個々の遺族の事情に沿って個別に対応してきた。既に補償を終えた方々もいるので、どこまで要望に沿えるのかわからない」

 同会では、JR西幹部らと集団交渉を粘り強く進めた上で新たな賠償の枠組みの実現を図る考え。しかしJR西は集団交渉そのものに反対しており、難航するのは必至だ。

 14日に大阪市内のホテルで行われる初会合には、事故当時の社長だった垣内剛氏、会長だった南谷昌二郎氏も出席する。遺族側は交渉に先立ち、事故責任の所在について説明を求めるという。

 現在、刑事責任をめぐる検察の捜査が大詰めを迎えている。浅野さんは「刑事責任の有無に関係なく、まず当時のトップが自らの手で事故を分析し、総括すること。賠償についても、すべてはそれからだ」と話している。

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