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2008年12月13日(土) 19時45分

この先、どうなるのか…“自主営業”京品ホテルの闘い続く読売新聞

 1871年(明治4年)創業で、今年10月に廃業した東京・JR品川駅前の「京品ホテル」(港区)で、解雇された約40人が「自主営業」を続けている。

 巨額の債務を抱え、突然、閉鎖を決めた経営会社に“異議”を申し立てるためで、すでに50日余りになる。しかし、裁判の行方次第では近く立ち退きを迫られる可能性がある。「この先、私たちはどうなるのだろうか」。金融危機の影響で各地に雇用不安が広がる中、ホテルマンたちは焦りを募らせている。

 今月10日午後7時すぎ。富田哲弘さん(58)はホテル1階の日本料理店「さが野」で、注文受けに、配膳(はいぜん)にと息つく間もなく動き回っていた。40人いた同店の店員は6人となり、メニューも10分の1に。客席で店員が作るすき焼きが売り物だが、人手不足で、混雑時は作り始めるまで客を1時間待たせることもある。それでも平日の夜は62席ある店内がほぼ満員で、近所のサラリーマンら、なじみ客が富田さんたちを支えようと足を運んでくれる。

 「このホテルは私の人生そのもの」という富田さんは鹿児島の高校を卒業後に上京し、1975年、京品ホテルに就職した。フロントや旅行会社との交渉窓口を経て、約10年前に総支配人になった。周囲に近代的な高層ホテルが次々に建つ中、戦前から残る3階建ての小さなホテルでも、出張客でいつも満室であることが誇りだった。

 ホテルの経営会社が廃業と従業員131人の全員解雇を突然、通告してきたのは今年5月。銀行などに約60億円の負債があり、その債権が米大手証券リーマン・ブラザーズ(9月破綻(はたん))傘下の金融会社に売却されたため、ホテルを売って返済に充てようとしているという。

 廃業した翌日の10月21日、富田さんたちは自主営業に乗り出し、さらに総勢46人で「従業員としての地位の確認」を求めて裁判所に訴えた。一方、経営会社は立ち退きを求める仮処分を申し立て、審尋で「解雇は株主総会の適法な決議で会社が解散したためで有効。ホテルは会社側の所有で、従業員の不法占有だ」と主張。経営会社の元社長(65)は「負債はホテルの売り上げで返済できる額ではなく、廃業しかなかった。もはや終身雇用の時代ではない」と語る。

 富田さんたちは「さが野」も含めホテル1階で飲食店計3店の営業を続け、ホテルも全52室のうち20室で宿泊に応じている。支援を呼びかけるためのビラまきや、従業員寮を追い出された仲間のアパート探しといった活動にも忙殺される。

 長女(19)と次男(18)の学費のため次の職場を探しながら、板前として働く男性(48)、新たな職場で働き始めたものの、かつての同僚が気になってホテルの様子を見に来る女性(21)……。「最後まで一緒にやると言ったじゃないか」とけんか別れした元従業員もいる。

 17日には仮処分の3回目の審尋がある。経営会社、従業員双方の主張はほぼ出尽くし、近く結論が出る見込みだ。富田さんも、アルバイトで食いつなぐ方が楽かもしれないと考えながらこう思っている。「まだ次が見つからない仲間がたくさんいる。総支配人だった自分が、ここで放り出すわけにはいかない」(水戸部絵美)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081213-00000039-yom-soci