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2008年12月13日(土) 15時27分

【記者が読む】ボクシング界の「ドリームマッチ」 刺激の先に見えた業界の危機産経新聞

 いつもボクシングファンがひそやかに考えていること。それが「全階級を通して、最も強いボクサーは誰なのか」というテーマだ。実際、ボクシングの専門誌では「パウンド・フォー・パウンド最強は誰だ?」といった特集が、よく組まれる。

 もちろん、ボクシングというスポーツが、下はミニマム級(リミット47・61キロ以下)から上はヘビー級(90・7キロ以上)まで17階級の体重別階級制で成り立っているからこそ、こうした企画が成り立つ。

 「最強のボクサー」を選び出す一般的な方法は「パンチ力」「防御力」「スピード」「キャリア」などの項目に分けて採点し、総合点で決めるやり方だ。こうすれば、現実には決して見ることができない階級差のあるカードを、想像の世界で楽しむことだってできる。

 ところが、そうした現実では「ありえない」ような夢のカードが実現してしまった。12月8日付朝刊運動面のオスカー・デラホーヤ(米国)−マニー・パッキャオ(フィリピン)がそれだ。

 「ドリームマッチ」と銘打たれたこの試合は、さまざまな意味で衝撃的だった。体格差の大きい軽量級と中量級のスター同士の激突であるということ。何より、大方の予想を覆す結果になったということである。

 ゴールデンボーイの異名をとる6階級制覇のスーパースター、デラホーヤはスーパーフェザー(リミット58・97キロ)からミドル級(同72・57キロ)で戦ってきたボクサー。一方、4階級制覇のパッキャオはフライ(同50・8キロ)からライト級(同61・23キロ)まで。その2人がウエルター級(同66・68キロ)の契約で同じリングに立った。

 身長、リーチ差は10センチ以上。体格差はあまりに大きい。だから、戦前の予想は圧倒的にデラホーヤ優位だった。ところが、いざふたを開けてみるとパッキャオのスピードの前に、デラホーヤはなすすべがなかった。待っていたのは8回終了TKOというショッキングな結末である。

 確かにファンも望んだ試合ではあった。だが、減量苦で足が動かない35歳の「ゴールデンボーイ」が一方的に打ち込まれる試合内容には、少なからず失望させられた。見てはならないものを見てしまった気分、といってもいい。

 この試合でデラホーヤは20億円以上、パッキャオも10億円以上のファイトマネーを稼いだといわれる。しかし、今回の「究極のスター対決」は結局、ボクシング界の著しいスター不足と人気の低迷という問題をあぶり出しただけにすぎなかったのではないか。

 水増しされる世界王者、低下するレベル。こうした問題から目をそむけ、ビジネス先行の話題作りばかりに走れば、ボクシングというスポーツは早晩、消滅してしまうだろう。そんな危うささえ抱かせられた「ドリームマッチ」が、悪夢への序章とならぬことを…。(運動部次長 正木利和)

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