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2008年12月13日(土) 13時23分

解明の鍵か「アニメ」と「つかむ」 東金女児遺棄事件産経新聞

 冷たい雨の中、5歳の保育園児、成田幸満(ゆきまろ)ちゃんを裸にして道路脇に捨てた容疑で逮捕されたのは、現場の目と鼻の先に住んでいた勝木諒(りょう)容疑者(21)だった。が、2人の接点や死亡の経緯は判然としない。勝木容疑者は核心部分になると「覚えていない」と口を閉ざすが、周辺からは解明のカギになり得る2つのキーワードが浮上してきた。「アニメ」と「つかむ」である。

 ■「逮捕する」に「うん」

 12月6日午前7時。

 幸満ちゃんの遺体が見つかった現場から100メートルしか離れていないマンション3階の1室に、注目が集まった。千葉県警東金署捜査本部の捜査員が体を滑らせて室内に入ってまもなく、フードを目深にかぶり、顔を隠した勝木容疑者が姿を現した。

 白昼の地方都市の真ん中で、全裸にされた女児が無造作に路上に捨てられるという衝撃的な「千葉・東金の女児遺棄事件」の発生から約2カ月半で迎えた“重要参考人”の任意同行の光景である。

 その日の午後2時25分。東金警察署の取調室で、捜査員が逮捕状を読み上げた。

 「死体遺棄容疑で逮捕する」

 そう言う捜査員に対し、勝木容疑者は取調室の机に両ひじをつき、身を乗り出すように大きくうなずき、短く答えた。

 「うん」

 この事件は物証が乏しく、加えて、白昼にもかかわらず、雨だったためか、有力な目撃証言も少ないと伝えられた。なかなか早期解決は難しいとの観測が強かった。

 しかし、実は警察はひた隠しにする“決定的なブツ”を手にしていたのである。幸満ちゃんの衣服が入れられていた袋に付着していた「指紋」だった。

 事件発覚直後、遺体が見つかった現場から北東に約100メートル離れたマンション駐車場で、幸満ちゃんの衣服や靴が捨てられているのが見つかっていた。服は、近くの大型商業施設のスーパーなどのレジ袋に入れられていた。ここから、誰のものか分からない指紋が検出されたのである。容疑者に結び付く可能性は高い。

 幸満ちゃんが最後に目撃されたのは、看護師である母親、多恵子さん(38)が勤める病院。ここは服の遺留地点から200メートルという近さだ。

 遺棄現場、遺留品の発見場所、レジ袋の商業施設、そして最後の目撃地点の病院…。いずれも徒歩圏内にあり、捜査本部では「車を持たない、現場周辺にいる者の犯行」との犯人像を描いていた。

 そうした中、聞き込み捜査の過程で数人の不審者が浮上し、捜査本部は行動の確認を続けた。その中でも車を持たず、免許もない勝木容疑者は犯人像にぴったりの存在。しかも勝木容疑者は衣服が捨てられていたマンションに住み、捜査員が行動監視している最中にも女性に付きまとうなど不審な行動を繰り返していたのである。

 その勝木容疑者の指紋が、レジ袋に残されていたものと一致した。これが逮捕の決め手になったのだった。

 「(犯人という)自信はある」

 任意同行に先だち、早朝、署に姿を現した千葉県警の藤崎雄一捜査1課長は自信を見せていた。

 ■変遷する供述

 「本当のことを話しているのか、はなはだ疑問。真に受けない方がいい」

 逮捕直後から、捜査幹部がこう繰り返しているように、勝木容疑者の供述は不可解な点が多い。

 (1)「知らない。会ったこともない」→(2)「テレビで見た女の子を見たことはある」→(3)「パトカーが来る前に、外で死んでいた5歳くらいの女の子とあった」

 勝木容疑者は追及の度に供述をこう変えていった。ただ、遺体遺棄について認める供述に転じてからは、主張はおおむね定まっている。

 勝木容疑者の説明はこうだ。

 まず、幸満ちゃんに会ったのは事件当日が初めてで、「面識はなかった」。

 事件当日、幸満ちゃんは病院から、勝木容疑者宅前や死体遺棄現場などを通った先にある友人宅に足を運び、不在で引き返すなどしていた。その過程で、勝木容疑者は幸満ちゃんと「何度も顔を合わせた」と説明する。そのときに声をかけた−という趣旨かもしれない。

 当日は雨の降り始めだったためか、「何度も(幸満ちゃんに)帰るように言った(促した)」とも勝木容疑者は供述する。

 そして、いったんは幸満ちゃんは帰ったが、「家に帰って玄関に入ったら、後ろについてきていた」と勝木容疑者は取調官に説明するのである。

 ただ、捜査幹部はこの供述に疑問を呈する。

 「幸満ちゃんを知る人たちが『人見知りで、一歩外に出ると、大人の男性にかなりの警戒心が抱いていた』という幸満ちゃんが、勝木容疑者に簡単について行くとは考えにくい」

 幸満ちゃんはどこで死亡したのか。勝木容疑者宅に幸満ちゃんが入ったことを裏付ける物証はまだ定かではないが、もし彼女が容疑者宅に入っていたとすれば、そこで死亡した可能性が高い。勝木容疑者はこう供述しているのだ。

 「女の子と家の中で一緒にいたら、ぐったりした。怖かったから抱きかかえて外に出て、(現場の資材置き場脇に)置いた」

 当時の心境を勝木容疑者はこう表現している。

 「目玉が飛び出るくらい、びっくりした」

 遺体を捨てた理由は2人暮らしだった母親がパートで外出中で「心配をかけてくなかったから」と供述している、という。

 こう聞けば供述はもっともらしいが、幸満ちゃんが死亡した経緯や誘い出した状況などの核心部分については、勝木容疑者は黙り込みがちになり、追及にこう繰り返すのだ。

 「覚えていない」

 捜査幹部は言う。

 「基本的に自分の有利な話しかしていない。にわかには信じがたい」

 ■幸満ちゃんの好きな「プリキュア」が容疑者宅に

 勝木容疑者が取り調べに黙り込みがちになる中、周辺からは、事件の真相を解くうえでカギになるのではと思われるキーワードもいくつか浮上している。

 ひとつ目は「アニメキャラクター」だ。

 勝木容疑者の自室からは壁一面のマンガなどが見つかった。

 「聖闘士星矢」

 「ポケットモンスター」

 「名探偵コナン」

 こうしたシリーズのほか、塗り絵や下敷きもあったという。

 そして、美少女の主人公が活躍する「プリキュア」のアイテムも発見され、捜査本部に押収された。

 「プリキュア」は、幸満ちゃんが友人宅でコシュチュームを着てはしゃいでいたというほど、幸満ちゃんの“お気に入り”のキャラクターだった。

 勝木容疑者は「プリキュア」の話題などで幸満ちゃんの興味を引きつけ、自室に誘い込んだ可能性も考えられるのだ。

 「プリキュアは(勝木容疑者宅にあった)数あるグッズの中の1つに過ぎず、事件との関連を結びつけるのは早計」

 捜査幹部はこう語るが、2人を結びつける接点が少ない以上、興味を示す捜査員がいることも事実だ。

 ■捜査員の目前で女性につきまとった容疑者

 ふたつ目のキーワードは「つかむ」。

 勝木容疑者は捜査員にマークされている最中も女性をつけるなどのストカー的な行動を繰り返していたが、同じマンションの住人も被害にあっていたという。

 その証言によると、帰宅してエレベーターを降りると勝木容疑者が立っており、自室まで後をつけてきた。部屋に女性が逃げ込むと、今度はインターフォンを押し「話がしたい」と訴えた。が、女性の家族が「何の用か」と尋ねると、無言で立ち去ったという。

 ほかにも、勝木容疑者に追いかけられたりした、とする被害が女性から捜査本部に多数寄せられている。

 その大半は20代前後の若い女性だったが、なかには女児のケースもあった。このうちの1件に、捜査本部は着目している。

 その事件は4月、小学4年の女児(10)が追いかけられた末、手をつかまれたというケースだ。

 幸満ちゃんの遺体に外傷はなく、極めてきれいな状態だったという。ただ唯一、腕にアザが残っていた。

 捜査本部では幸満ちゃん事件発生当初から、このアザに注目。女児のケースと同様に、無理やりつかまれたとみていた。

 「腕をつかまれ、無理やり連れ込まれたとなると、幸満ちゃんが騒いだことも考えられる。殺害動機に結びつく可能性もある」

 捜査関係者はそう推測するのだ。

 捜査本部では、勝木容疑者が自室で幸満ちゃんを殺害したとの見方を強めているが、容疑者宅の室内からはこれまでのところ、血液反応などの有力な手がかりは発見されていないようだ。

 「ゆき(幸満ちゃん)は犯人の顔を知っていると思うので、改めて私から報告しなくてもいい。でも…。(勝木容疑者には)全部を明らかにしてほしい」

 幸満ちゃんの母親、多恵子さんは逮捕後に、心境をこう語った。

 「思いだすようにがんばる」

 取調室でそう供述する勝木容疑者の心の壁を、取調官が突き崩せるか、否か。それが事件解明の鍵を握っている。

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