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2008年12月13日(土) 12時18分

<浜岡原発>原告団「中電、世論に負けた」 廃炉検討毎日新聞

 東海地震の想定震源域の真上に位置する浜岡原発(静岡県御前崎市)。安全性を強調してきた中部電力が一転して1、2号機の廃炉を検討していたことが明らかになった13日、関係者はさまざまな表情を見せた。運転差し止めを求める訴訟の原告団は一定の評価を示しつつも、6号機の建設計画に反発。地元自治体は戸惑い、あるいは冷静に受け止めるなど反応が分かれた。中電の対応は、安全性を争う他の原発の関係者たちの注目も集めた。

 浜岡原発差し止め訴訟の原告団共同代表、白鳥良香さん(76)は「驚いたが、裁判も含め中電側が原発への不安を訴える世論の力に負けたということ。東海地震が起きた時の危険性を中電側が認めたということではないか」と話す。

 控訴審への影響について、白鳥共同代表は「高裁は、中電が廃炉を決めれば1、2号機について審理しないことを勧めると思う。だが、中電側が『絶対安全』と主張してきた1、2号機の危険性については今後も争っていく。6号機建設なんてとんでもないことだ」と話した。【望月和美】

 ◇地元自治体は反応さまざま

 原発が立地する地元自治体は、中電の検討内容を聞かされておらず、反応はさまざまだ。

 静岡県御前崎市の石原茂雄市長は「廃炉のことは中部電力からまったく聞いていない。なぜこんな話が出るのか。6号機の新設を求める声が地元の活性化を求める住民の一部にあることは承知している。しかし1、2号機が廃炉となれば話は別だ。筋道を立てた議論が必要だ」と語った。

 御前崎市に隣接し、共同して原発対策にあたる「地元4市」の一つ、牧之原市の西原茂樹市長は「初めて知った。1、2号機は老朽化していることもあり方向として廃炉は良いと思う。6号機の新設も前からシナリオはあったと思う。驚いていない」。掛川市の戸塚進也市長は「正式な話は聞いておらず驚いている」と語ったが、「1、2号機は長く止まったままなので世間で心配する声もある。個人的には廃炉を検討するべき時期だと考えている」と評価した。

 原発から約1キロ離れた御前崎市佐倉で原発反対を訴えている自営業、伊藤実さん(67)は「ずっと1、2号機の老朽化を訴えていたので歓迎する。ただ6号機新設は本気なのか。雇用創出を考えた地元へのリップサービスではないか」と疑問視した。また、地元住民でつくる佐倉対策協議会の植田亮敏会長は「中電からは、2011年に1、2号機についても運転を再開すると聞いていたので寝耳に水だ」と驚いていた。

 ◇「当然、遅すぎた」

 石橋克彦・神戸大名誉教授(地震学)の話 老朽化し、既に長く運転が停止している1、2号機は廃炉が当然で、中部電力の検討は遅すぎたと思う。浜岡原発は、マグニチュード8クラスの東海地震の想定震源域の真上にあり、地球上で最も危険な場所にある。新たに6号機を建設するなどとんでもないことで、3、4、5号機と順番に廃炉にしていくのが望ましい。国の原発立地審査指針には「大きな事故の誘因となる事象が過去になく、将来も考えられないこと」とあり、国は6号機の申請は門前払いにすべきだ。

 ◇「新炉は合理的」

 宮崎慶次・大阪大名誉教授(原子力工学)の話 賢明な判断だ。運転開始からともに30年を経た1、2号機に多額の費用を費やして耐震工事をするよりも、新炉を建設した方が安全面でも電力会社の経営面でも合理的だ。原子力の経済的優位性は確立されたと言ってよく、古い炉を使い続けるより、新炉を建設した方が将来の電力の安定供給も見込める。今回の方針は、他の老朽化した原発にも影響を与える可能性があり、今後の推移を注視したい。

 ◇柏崎刈羽原発訴訟原告には「有利」

 昨年7月の新潟県中越沖地震でトラブルが相次いだ東京電力柏崎刈羽原発の訴訟にも影響を与えそうだ。

 同原発を巡っては79年、周辺住民らが1号機の設置許可取り消しを国に求めて提訴。1審(94年)、2審(05年)とも住民側が敗訴したが、中越沖地震で国の断層調査の不十分さが明らかになったとして最高裁に上告している。

 原告代理人の和田光弘弁護士は「柏崎刈羽原発1号機も運転を開始して23年。もし廃炉にするなら原告にとっては有利に働くだろう」と話した。また原告の一人、矢部忠夫柏崎市議は「運転停止が長期化し、老朽化していることも考えれば、それしか方法はない。一定の評価はする」と述べた。ただ「6号機を建てるとなると話はまったく違う。東海地震の震源域に原発を建てることは無謀で、正気のさたではない」と批判した。【五十嵐和大】

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