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2008年12月11日(木) 00時00分

重責めぐり揺れる候補者<1>読売新聞

7月の模擬裁判で、裁判官らと面談する裁判員の候補者たち(手前側、地裁で)

 「不公平な裁判をする恐れはありませんか」。検事や弁護士らがそろった地裁の一室で、裁判長が裁判員候補者たち5人に問いかけた。5人が「特にありません」と答えると、すぐに「面談」は終わった。

 2009年5月21日にスタートする裁判員制度を知ってもらおうと、地裁が7月に行った模擬裁判で、面談は裁判員を選任する手続きだ。他の候補者約25人は隣の待合室で自分の番を待つ。面談終了後、くじ引きで裁判員6人が決まった。

 裁判員裁判の対象は殺人や誘拐、危険運転致死などの重大事件。県内では毎年十数件起きている。県内の候補者は1040人。各市町村の選挙人名簿から人口比に応じて抽出され、11月末に調査票などが送られた。法曹関係者や警察官、自衛官などはなれず、70歳以上や学生は辞退できる。辞退希望者は理由や時期などを記して15日までに返送する。辞退しなかったうちの数十人に呼び出し通知が届き、面談を経て6人を選ぶ。

裁判員候補者に送られた調査票などの書類

 県東部の50歳代の会社社長は、今月2日に裁判員候補となったとの書類を受け取った。自分には来ないと思っていたので「びっくりした」という。仕事の忙しさも辞退理由にはなるが「選ばれたなら義務」と考え、辞退希望は出さないという。重大事件で刑が軽いと感じたこともあり、市民の入った評議で判決を決めるのは大切だと思う。

 もちろん不安もある。法律に詳しくなく、裁判所には行ったこともない。被告人供述や被害者、遺族らの証言などを聞いても、情に流されずにきちんと判断できるのかどうか。そして、被告人に死刑を言い渡す場合、自分にその覚悟があるのか。

 「裁判官の助言もある。当然悩むが、それが当たり前。誠実に受け止め、やっていこうと思う」と言う。

 和歌山地裁から通知が来た女子大学生は、来年は就職活動が忙しいことを理由に辞退申請した。「死刑や無期懲役などを判断するのはすごく抵抗があり、とても出来ない。多数決で有罪か無罪かを決めることもおかしい」と話す。

 一般市民にも、もし裁判員になったら、と心配する声は多い。

 鳥取市の自営業の男性(60)は「一人で店をしており、留守にできない。候補者に選ばれても辞退するつもり。司法のプロでもないのに人の一生を左右していいか、との思いもある」と打ち明ける。鳥取大4年の男子学生(24)は「プロの責任逃れとも感じる」と手厳しい。

 教戒師をしている同市の寺の住職(54)は「罪を犯した人と接し、更生することがあると知っているので、死刑判決を出すことにかかわれない。死刑判決にかかわって心に傷を負う裁判員も出るだろう」。同市の無職男性(67)は「冤罪(えんざい)が100%ないとは言えず、取り返しがつかないことをしてしまわないか心配だ」と話した。

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 司法制度の大改革・裁判員制度の開始まで半年を切った。「司法に国民感覚を」の狙いで行われる制度の意義は国民に浸透しているのか。県内の準備状況や課題を探った。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tottori/feature/tottori1228914726853_02/news/20081210-OYT8T00721.htm