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2008年12月10日(水) 11時01分

だいあろ〜ぐ:東京彩人記 フォトジャーナリスト・権徹さん /東京毎日新聞

 ◇ストリートチルドレンの日々追ったフォトジャーナリスト・権徹さん
 新宿・歌舞伎町で暮らす4歳のストリートチルドレンをテーマにした写真集「歌舞伎町のこころちゃん」(講談社・1500円)が11日に発売される。著者は韓国人フォトジャーナリストの権徹さん(41)。写真集に込めた思いを聞いてみた。
 ◇「社会全体に責任」
 ——こころちゃんに初めて出会ったのは?
 昨年9月にコマ劇場前広場で。「ちょっと汚いな」という印象で、ストリートチルドレンとは思いませんでした。10年以上歌舞伎町の路上で写真を撮り続けていますが、そういう子供を見たことはありませんから。
 ——写真集には父親と居酒屋で食事をしたり、夜のゲームセンターで遊ぶ姿が写っていますが、どんな子ですか?
 人懐こくて、すぐに大人とも仲良くなる子です。最初はかわいそうな女の子と触れ合っているという感覚でした。冷たいアスファルトの上で、毛布から素足を出して寝ている姿を見て胸が痛みました。ジャーナリストではなく、一人の人間として接していましたね。写真を撮っている暇があるなら、早くこの子にちゃんとした生活をさせないといけない、と。
 「なんでカメラ持っているのに写真撮らないの?」って無邪気に聞かれたこともあります。自分にも理由がわかりません。ジャーナリストとしては失格かもしれませんね。悲惨な境遇を伝えるのであれば、いわゆる「オイシイ瞬間」は何度もありましたから。
 ——その後、取材を始めたきっかけは?
 ある日、こころちゃんがシャツのすそをあげてお腹を掻(か)くのを見かけたんです。垢(あか)で黒ずんでいました。寒い冬が始まれば風邪をひいてしまうかもしれない、死んでしまうかもしれない、と焦りました。
 そんな姿を見かねて、一緒にいた父親に現金を渡したこともあります。でも、父親はそれでビールを買ってしまうような人でした。「それでも、あんた親なのか」と怒鳴ったこともありますが、話を聞くうちに「どうしようもない」という気持ちもわかるような気がしました。
 ——それがこの写真集で伝えたいことですか?
 取材の過程で、日本は豊かな国ではなかったのか、という疑問が強くなりました。歌舞伎町に遊びに来る人たちは、こころちゃんに無関心でした。これは父親一人の責任じゃない、社会全体に責任があると思います。こころちゃんの姿は私たちに何かを問いかけてくれる。理不尽な現実を社会にぶつけてみることは価値があると考えています。<聞き手/社会部・村上尊一記者>
 ◇記者の一言
 権徹さんは今年5月の中国四川省の大地震で、両脚を切断した少女に「義足をプレゼントする」と約束した。帰国後、少女の写真の雑誌掲載料を中国に送ったり、知人から寄付金を集めたりしている。
 こころちゃんについても、写真集の印税を自立に役立ててもらおうと寄付をするという。彼女は3月に児童養護施設に入ったが、権さんは「家族が一緒に暮らせるように、陰ながら見守っていきたい」と話している。
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 ■人物略歴
 ◇ゴン・チョル
 67年韓国生まれ、94年に来日。フォトジャーナリスト。日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(JVJA)会員で、写真誌「DAYS JAPAN」や週刊誌を中心に作品を発表。ハンセン病患者や在日朝鮮人など多様なテーマで撮影を続け、歌舞伎町の路上写真をライフワークにしている。主な作品は「歌舞伎町事変 1996〜2006」(李小牧との共著)。

12月10日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081210-00000004-mailo-l13