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2008年12月10日(水) 14時52分

彼女が“中国投資”に失敗した理由Oh! MyLife

 上海に来る日本人「留学生」の年齢や学習目的は人それぞれ。

 「言葉を学んだのち語学を生かした就職先を見つけたい」と語る20代30代の方もいれば、「まだまだ就業機会を得たいから」とか、「通訳なしで中国各地の世界遺産巡りをしたいから」といったことが理由で言葉を学んでいる60代70代の学生もいる。

 だが目的がはっきりしていれば、どんな苦労も耐えられる、ということでは、どうやらなさそうだ。

 日中交流会や在留日本人の交流会などに参加すると、「食が合わない。日本に帰りたい」「生活環境に馴染めない」などと悩んでいる人々との出会いもある。

 そんな集まりのなかで、ひとりの日本人女性と知り合った。Aさんと呼ぼう。彼女は47歳。

 「パート勤めをしていた職場の社員旅行で上海に来たのがきっかけ。そのとき若い男性に恋をした。それで、その後の半年間は月に1度、上海に来るようになった。彼と離れていたくないと思ったから、語学留学した」

 彼女にとって留学自体、自分への投資ではなく、その恋人のための投資だったと言う。

 その恋人の中国人男性B氏は、Aさんより20歳以上も年下。Aさんは出会いからたった2年あまりの期間に、日本円にして約3000万円を、Bさんに投資した。

 「いつか彼と2人で会社を作りたいという夢があった。今の彼の生活を支えることは、未来の彼に投資するのと同じこと。だから私は精一杯、彼を助けた」

 B氏は飲食店に勤務する。その飲食店の株の購入費用にと現金20万元(300万円)を渡したほか、Aさんは「プラチナのネックレス、ブランド物のバッグ・衣類数着、パソコン2台、携帯電話2台、バイク1台、旅行時の列車や飛行機のチケット」などをBさんに買い与えたという。

 「彼は貧しい村の出身。そんな彼を好きになった以上、私が彼を幸せにしたいと思った。お金がないと旅行も出来ないと思い、各地に連れてってあげた」

 彼を幸せにしたい、と語るAさんは既婚者。半年間の旅費はもちろん、留学諸費用、滞在中の生活費、B氏に“投資”した金……。全て、語学学習を目的に上海に旅立った、と信じてきた旦那さんが稼いだ金だ。

 「同級生のなかで、私が1番金銭的に豊かだった。誰もが私を羨望の眼差しで見ていたはず。でも、そんな素敵な家庭は、旦那の浮気でじつはすでに壊れていた。私がどれだけ傷ついたか。旦那が女と別れて帰ってきたときは笑顔で許してあげた。けど、心のなかでは、やり直す気など全くなかった。だから日本でパートの職を見つけて、それがきっかけでここに来た。あのときの慰謝料だと思っても、まだ足りない」

 かたやB氏は嘆く。

 「彼女は自ら望んで僕に投資してくれた。そのお金は、旦那さんを騙した金だということは聞いている。でも彼女には子どもがいる。だから私は彼女に、“離婚しないで欲しい”と言ってきた。まさか、“離婚したら2人で会社を作ろう。一緒に暮らそう。その気がないなら20万元を返して”などと言い出すとは思わなかった。あの金はもうない。そして母親よりも年上の女性と一緒に暮らすことは出来ない。彼女の存在が日に日に、うっとうしくなっている」

 実は、B氏を初めて紹介された時、どこかで見た顔だなと感じた。そうすると、数分も経たないうちに思い出した。

 その数日前から、私は上海で近年増加している「鴨子(ヤーズ)」を取材していた。鴨子とは、女性客を相手する若い男性のことだ。そのうちのひとりが、“同郷の友人”といって見せてくれた写真の男が、B氏だったのだ。

 鴨子の商売相手は、金持ち女性だ。富婆(フープォ)や富家女(フージャアニュウ)と呼ばれる。

 中国の飲み屋のシステムは日本と異なり、従業員にはそれぞれの役割がある。

 飲み物や料理を運ぶ店員は、客の隣に座ることが禁じられている。許可されているのは「接待部」の従業員だ。そして接待部は、2つの部隊で構成されている。

 店に正規雇用されている従業員と、そうではない小姐、鴨子だ。

 前者の従業員の方は、指名されて客の隣に座っても個別の料金は発生しない。だが小姐や鴨子は、歩合制での雇用のため、個別の料金が発生する。

 小姐を買う多くの男性の目的は彼女らの体であり、一晩ベッドを共にして、最低金額1500元からという。

 これに対して、鴨子を買う女性らは、「出張が多い旦那や遠距離恋愛中の恋人と一緒に時間を過ごせない、その寂しい時間を埋めてもらうことが目的」という。必ずしも肉体関係を求めているわけではない。

 鴨子は客の隣に座ると500元。客席で恋人気分を味わわせ、客を満足させられれば800元から1200元。店外に連れ出すのは1000元から2000元。一晩ベッドを共にすると、3000元から1万元……の金額が上乗せされるとか。

 「本業とは別に、副業で鴨子家業をしている若者もいる」

 「毎晩、客の要望に応じるために酒やドラッグが手放せない者もいる」

 「最近は、鴨子を買う日本人女性も増えているらしい」

 上海の人々に話を聞くと、このような発言が返ってきた。Aさんの恋人B氏も、週末だけ鴨子稼業に関わっている。

 AさんとB氏の間に肉体関係は今まで2回だけ。だが、Aさんはこういう。

 「彼は何度も私を愛していると言った。もし彼がお金を返してくれないなら借用書を持って裁判所に行き、お金と愛情の詐欺罪で訴えてもいい」

 あくまで強気なAさんから20万元の借用書を見せてもらって、唖然とした。

 この文書が裁判所で効力を発揮するかどうか私にはわからない。そのうえ、「借(ジエ)」という字が、「接(ジエ)」にも見える。

 「借銭」は金の貸し借りを意味するが、「接銭」ならば、B氏は“金をもらった”ことになる。

 ◇

 夜の世界に身を置く人々に、AさんとB氏の恋物語について感想を聞いた。

 「2人は恋人ではないと思う。小姐や鴨子には本命の恋人がいる場合も多い。既婚者もいる。中国の金持ちは、そういうことを分かっていて遊ぶ。だから小姐を買う男の妻も、鴨子を買う女の旦那も、遊びだと理解して容認している。そんなことも知らずに、中国の夜の世界に足を踏み入れた彼女が悪い」(25歳・鴨子)

 「2人とも誤算があったのだと思う。彼女は彼の“愛している”という言葉が、彼女の財布の中身に向けられた言葉だとは思わなかった。そして彼は、中国人の富婆と日本人の彼女が同じ考え方だろうと信じて、関係を持ったのだろう」(26歳・鴨子)

 「彼に対して、“お気の毒に”と言いたい。2回寝ただけで大金をくれる人がいたら私だって、“愛している”という言葉ぐらい何回でも言います」(24歳・小姐)

 「ここまで鴨子に本気になる富婆は彼女ぐらいだと思う。誰かの命が奪われないと、終わらない関係のような気がする」(46歳・クラブ幹部)

 「中国では愛情も金で買える。金の存在があったから、彼は20歳以上も年上の彼女を愛せた。ドラッグもやっていないのに、2回も彼女を抱けたことがすごい。彼女は彼に投資したのではなく、若い男との将来を夢見た自分に投資したに過ぎない」(45歳・クラブ幹部)

 「投資はビジネス。見返りもあるけど誤算もつきもの。投資に男女間の愛情を絡めること自体、馬鹿げている。彼女が口にしたのは甘い酒でも媚薬でもなく、ただの毒に過ぎない」(30歳・クラブ女性客)

 ◇

 「留学が終わったら旦那に離婚してもらう。私は貯金がないから慰謝料で1000万円は、もらいたい。旦那がそれを拒否したら……そのときは旦那、殺してこようかな」

 4カ月前の8月に、最後にお会いしたときAさんは、ため息まじりにそうつぶやいた。彼女の留学期間は、まもなく終わる。

(記者は上海在住)

(記者:長島 美津子)

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