記事登録
2008年12月09日(火) 03時29分

やっぱり厚い「ガラスの天井」…女性候補進出で浮き彫りに読売新聞

 女性の進出を阻む「ガラスの天井」に本当にヒビは入ったのか−−。大統領選で女性候補が注目を浴び、「女性の年」と呼ばれた米国で、その成果を問い直す声が出ている。

 女性候補がホワイトハウスという高い「天井」にかつてなく近づいたことで、かえってその厚さが浮き彫りになった形だ。

 ◆否定的女性像

 バラク・オバマ次期大統領に民主党の予備選で惜敗したヒラリー・クリントン上院議員(61)は「ビッチ」(性悪女)。共和党副大統領候補だったサラ・ペイリン・アラスカ州知事(44)は「ディッツ(おばかさん)」−−。

 女性コラムニストのアマンダ・フォティーニ氏は週刊誌「ニューヨーク」で、クリントン氏とペイリン氏が、米社会で根強い否定的な女性像にそれぞれはめこまれた、と指摘した。

 冷徹に権力をめざす男性なら「野心家」と呼ばれても、女性は「性悪」と否定され、同性の支持さえ得られない場合もある。逆に、実績もないのに上司に気に入られて昇進すれば、ペイリン氏のように嫉妬(しっと)や軽蔑(けいべつ)の対象におとしめられる。

 「こうした偏見を打ち破るには、もっと多くのモデルが必要」。フォティーニ氏は訴える。

 ◆次の挑戦

 クリントン氏はオバマ次期政権の国務長官に起用され、CNNテレビの世論調査で米国民の71%が歓迎するなど好感されている。だが、女性の国務長官はすでに3人目で、女性の政治進出の地平を広げるわけではない。オバマ政権に取り込まれ、大統領選再出馬の可能性は逆に遠のいたとも言える。

 4年後の政権奪還にかける共和党では、ペイリン氏出馬への待望論はあるものの、大統領選の出口調査で有権者の6割が「大統領の資質なし」と答えたペイリン氏擁立に抵抗感も広がっている。

 両氏以外の新たな女性スター候補が出現する可能性はある。だが実は、米国は連邦議会の女性議員率が世界71位と、女性の政治進出で見る限り先進国とはいえない。11月の大統領選と同時に行われた上下両院選挙と知事選でも、女性の当選者数は、現行水準から微増、または横ばいにとどまった。

 オバマ次期大統領は、クリントン氏をはじめ国土安全保障長官、国連大使など安全保障や危機対応に直結するポストに女性を起用した。実績を上げれば、女性が米軍最高司令官となることへのハードルを押し下げる効果が期待される。

 ◆スーツ封印

 大統領夫人としてホワイトハウス入りするミシェル・オバマ氏も、「天井」を感じている形跡がある。

 以前はよく着ていた働く女性らしいスーツ姿は、ほとんど見られなくなった。代わってワンピースやドレスなど、柔らかく華やかな印象を与えるファッションが定番となった。

 ミシェル氏は夫と同じハーバード法科大学院卒のエリート弁護士。大学院卒のファーストレディーはクリントン氏に続き米史上2人目だ。

 女性の労働条件改善に一役買う意欲を見せていたが、夫の公務に積極関与して批判されたクリントン氏を意識してか、ホワイトハウスでの自分の役割は「最高の母になること」と子育て宣言した。

 「米国は、母性や女性の純粋さに対するあこがれが強い国。スーツを着た強い女性を恐れている部分がある」

 オンライン雑誌「スレート」で女性問題のブログを主宰するエミリー・バゼロン氏は、ミシェル氏がスーツを「封印」する判断にいたった事情を分析した上で、期待を込めていう。

 「今は受けのよい服装を選んでも、彼女の頭脳や学位が逃げるわけではない。いつか行動を開始するだろう」

 (五十嵐文・前ワシントン特派員)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081209-00000006-yom-int