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2008年12月09日(火) 21時56分

「犯行場所に疑問」差し戻し あいりちゃん事件で高裁中国新聞

 広島市で二〇〇五年、下校中の小学一年木下きのしたあいりちゃん=当時(7)=が殺害された事件で、殺人、強制わいせつ致死などの罪に問われたペルー人、ホセ・マヌエル・トレス・ヤギ被告(36)の控訴審判決公判が九日、広島高裁で開かれた。楢崎康英ならざき・やすひで裁判長は、「犯行場所の認定に疑問がある」などとして、無期懲役とした一審判決を破棄、審理を広島地裁に差し戻した。検察側は死刑を求めていた。

 楢崎裁判長は判決理由で、女児の血液などが付着した毛布を、被告が「屋外に持ち出していない」と供述したととれる検察官調書について、「弁護人が公判前整理手続きで任意性を争うとしたのに、一審は争点整理をせず、当事者に任意性の主張すらさせないで証拠請求を却下した」と指摘。

 「調書を調べれば犯行場所が分かる可能性があり、犯行態様も明らかになると思われる」として、訴訟手続きに法令違反があるとした。

 一審判決が犯行場所を「アパートおよびその付近」とし、屋外での犯行可能性を認めたことについては「アパートの敷地は市道に面していて通行人に丸見え」などとして事実誤認があると認定。「犯行場所があいまいなまま双方の主張を判断するのは相当でない」とした。

 昨年十一月に始まった控訴審で、被告のペルーでの女児への性犯罪歴に関する資料を初めて証拠採用した点については「前歴でも、被告の犯罪が確実なら量刑で考慮すべき場合がある」とした。

 一審広島地裁は〇六年七月、被害者が一人で、前科が認められないことなどを理由に死刑を回避。検察、被告双方が控訴した。控訴審で検察側はあらためて死刑を求め、弁護側は殺意とわいせつ目的を否定している。

 一審判決によると、トレス被告は〇五年十一月二十二日、広島市安芸区であいりちゃんにわいせつな行為をし、首を絞めて殺害。遺体を段ボール箱に入れ放置した。

 ▽あいりちゃん殺害事件

 2005年11月22日、広島市安芸区の空き地の段ボール箱から、小学1年木下きのしたあいりちゃん=当時(7)=の遺体が見つかった。広島県警はペルー人のホセ・マヌエル・トレス・ヤギ容疑者を逮捕。広島地検は殺人、強制わいせつ致死、死体遺棄などの罪で起訴し、死刑を求刑した。広島地裁は06年7月、無期懲役を言い渡し双方が控訴。トレス被告は一貫して殺人と強制わいせつ致死罪の無罪を主張している。

 ▽あいりちゃん小1女児殺害事件の経過

 2005年11月22日 広島市安芸区で、下校中に行方不明になった小学1年木下あいりちゃん=当時(7)=の遺体発見

 30 広島県警が殺人と死体遺棄容疑でペルー人のホセ・マヌエル・トレス・ヤギ容疑者を逮捕

 12・21 広島地検が殺人、強制わいせつ致死、死体遺棄の罪で起訴

 06・5・15 初公判でトレス被告が殺意を否認

 6・9 地検が死刑を求刑、弁護側は死刑回避を求め結審

 26 あいりちゃんの父建一さんが記者会見し、性犯罪抑止のため実名での報道を要望

 7・4 広島地裁で無期懲役の判決

 07・11・8 二審初公判

 08・5・20 被告のペルーでの前歴2件の資料を証拠採用

 7・31 検察側があらためて死刑を求め結審

 12・9 広島高裁が審理を地裁に差し戻す判決

 ▽差し戻しは予想外

 山舗弥一郎広島高検次席検事の話 (一審差し戻しは)予想外の判決だ。内容を検討の上、適切に対処したい。

 ▽双方の主張を無視

 トレス被告の弁護人、井上明彦弁護士の話 控訴審での当事者双方の主張を無視して裁判所が職権で判断している。差し戻して被告に不利な証拠を採用するよう言っており、検察官がもう一人いるようなものだ。今週中にも上告したい。

 ▽死刑選択もありうる

 板倉宏・日本大名誉教授(刑法)の話 一審判決はペルーでの「前歴」がないとの前提で無期懲役としたが、高裁は考慮する必要性に言及しており、今回の差し戻し判決で死刑を選択する余地もありうる状況になった。妥当な判断だ。差し戻し審では「前歴」が量刑判断の重要な材料になるだろう。また、裁判員制度が始まると、専門家でない市民が審理するため事実認定がアバウトになる可能性もあり、厳密さを求める意味合いもあるのかもしれない。

http://www.chugoku-np.co.jp/News/Sp200812090334.html