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2008年12月09日(火) 19時35分

米メディアの再編加速か トリビューン破綻産経新聞

 【ニューヨーク=長戸雅子】ロサンゼルス・タイムズなど複数の有力紙を発行する米メディア大手、トリビューン(本社・シカゴ)が8日、連邦破産法11条(日本の民事再生法に相当)の適用を申請し事実上、経営破綻(はたん)した。インターネットの普及による発行部数の減少と、紙媒体への広告収入の減少は新聞界共通の問題。業界の再編加速も予測されるなど、新聞事業は大きな転換点を迎えている。

 トリビューンは1847年創設の老舗で、従業員数は約2万人。全米4位の発行部数を誇るロサンゼルス・タイムズなど新聞12紙と23の放送局、福留孝介外野手が所属する大リーグ球団「シカゴ・カブス」などを所有する。

 こうした大手メディアが破産申請したことは、「異例の措置」(ニューヨーク・タイムズ紙)と衝撃をもって報じられた。負債総額は約130億ドル(約1兆1960億円)という。

 トリビューンは2007年末にシカゴの不動産王、サム・ゼル氏に82億ドル(約7540億円)で買収された。その後、従業員持ち株組織とゼル氏が株式を取得し、非公開化するという形で再建を進め、資産売却や紙面刷新、複数回に及ぶ大幅な人員削減を行ってきた。最近もロサンゼルス・タイムズで約240人、シカゴ・トリビューンで約80人の人員削減が行われた。

 瀕死(ひんし)の企業をよみがえらせるという手腕から「墓場のダンサー」(米メディア)との異名をとるゼル氏だが、08年第3四半期の同社の広告収入は前年同期比で19%下落した。ゼル氏は8日発表した声明で、「なすすべのない、いくつかの要因が最悪の事態を生み出した」と述べ、金融危機や景気後退といった経済状況が破産申請の決定的要因になったと強調している。

 経済と情報学の研究で知られるカリフォルニア大バークレー校のイェール・ブラウンシュタイン教授は、トリビューンの経営破綻について「ある程度までは、新聞業界が共通して抱える問題を示しているといえるが、(新聞経営を知らない)ゼル氏のお粗末な経営方針が問題を拡大させたところもある」と指摘した。

 とはいえ、この日は米新聞大手、ニューヨーク・タイムズも、金融機関から2億2500万ドル(約207億円)を借り入れるため、昨年完成したばかりの自社ビルを担保として差し入れる方針であることが報じられ、新聞業界の苦境が改めて示された。

 ブラウンシュタイン教授は「いくつかの新聞は現在のようなやり方で、あるいは改革することで生き残ることができるが、その他は消えていくだろう」と近い将来の再編を予測する。

 さらに、「フェースブック」のようなインターネット上で会員同士が情報交換する「ソーシャル・ネットワーキング・システム」(SNS)と、ニュースを連動させることなど、日刊紙が「市場の現実に適応した創造性ある方法で、利益を生み続けることは可能だ」と述べる。

 その例として、米紙クリスチャン・サイエンス・モニター(本社ボストン)が日刊紙から電子新聞、週刊紙への業態変更を決めたことを挙げ、「配送コストを削減でき、ビジネス上、理にかなっている」と評価した。

         ◇

 ■トリビューン社傘下の主な企業

【新聞】ロサンゼルス・タイムズ▽シカゴ・トリビューン▽ボルティモア・サンなど12紙

【テレビ】シカゴWGN▽ニューヨークWPIX▽ワシントンWDCWなど23局

【ラジオ】シカゴWGN

【球団】シカゴ・カブス


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