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2008年12月08日(月) 09時00分

スターバックスに“死角”はあるのか? ポイントは米国本社との関係Business Media 誠

 企業の価値とは何だろうか? 「決算書を見れば分かる」「時価総額のことだ」といった意見もあるだろう。それでは数字に表れない「企業価値の源泉」があるとすれば、どのようにして見抜けばいいのだろうか? こんな質問をされたら、考え込んでしまう人も多いのではないか。

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 かつて大型M&Aの案件を手掛けてきたブルー・マーリン・パートナーズ代表の山口揚平氏は、企業の「目に見えない」価値を見抜く、という作業を行ってきた。「もちろん財務諸表などを分析し、すべての数字を把握することは欠かせない。しかしそれだけでは不十分で、『なぜその企業の利益率が高いのか』と自分の頭で考え、企業価値の源泉を見つけることが大切」と山口氏は説明する。

 「目に見えない」数字とは、どういう意味を指すのだろうか。山口氏の著書『デューデリジェンスのプロが教える 企業分析力養成講座 会社の本質を見抜く9つのポイント』(日本実業出版社)の中でも触れている、「スターバックス コーヒー ジャパン」(スターバックス)を事例に挙げ、外資系企業の経営システムなどを紹介する。

●スターバックスとドトール、どっちが“強い”?

 スターバックスは1971年、米国のワシントン州で誕生。そして日本には25年後の1996年、東京・銀座に1号店がオープンし、2008年3月末時点で776店舗に達している。

 スターバックスの競合他社といえば、同じコーヒーチェーンのドトールコーヒー(ドトール)。そのドトールとスターバックスの売上高営業利益率(企業の本業での収益力)を見ると、2007年3月期にスターバックスが逆転。スターバックスはほぼ直営店だが、ドトールの多くの店舗はフランチャイズだ。

 一般的に直営店の場合は、建物などの固定資産や人件費などがかさむため、資本効率が悪くなる傾向がある。「しかしスターバックスは収益性の面で、ドトールを上回っている。これはスターバックスがブランド力を高め、高価格の商品を顧客に訴求できているため」(山口氏)と評価する。

 またスターバックスは今後、どこまで成長することができるのだろうか。外食産業総合調査研究センターの調査によると、1997年の喫茶業市場規模は1兆4000億円だったが、2007年には1兆600億円に縮小。だがセルフ型のチェーン店は増加傾向にあり、スターバックスが成長する見込みは強い。とはいえ成長はいずれ止まるものだとすれば、それはいつごろなのだろうか。この点について、山口氏は以下のように分析している。

 「セルフ型チェーン店の市場が喫茶市場全体の半分まで伸びると仮定し、1兆円の半分の5000億円ほど。ドトールの売上高が700億円、スターバックスが900億円、ほかのチェーンの売上合計が1000億円だとすれば、現在の市場規模は2600億円。もし平均成長率10%ほどのペースで伸びると、セルフ型チェーン業界の市場はあと7年で2400億円増えて、5000億円となり飽和状態になるだろう」と見ている。

●スターバックスが抱える3つの問題点

 スターバックスの業績は順調で将来性も見込めるが、落とし穴はないのだろうか。山口氏は「スターバックスを分析する場合、米国本社との関係を無視することはできない」という。スターバックスの資本構成を見ると、米国スターバックス本社(資本管理会社、SCI)とサザビーリーグ(日本の会社)が40%ずつ保有している。そして米国のスターバックスとの契約内容に“問題がある”と指摘する。

 主なポイントとして、山口氏は「ライセンス料、出店ノルマ、利益還元」の3つを挙げている。有価証券報告書によると、スターバックスのライセンス料率は5.5%。「他社と比較すると、ライセンス料率の5.5%は妥当な水準。しかし売上の5.5%が差し引かれるため、これまで以上に競争が激しくなると、収益面での不安がある。また支払手数料(2008年3月)が15億円計上されているが、具体的な内容が分からないのが問題だ」

 2つめの「出店ノルマ」だが、日本と米国のスターバックスの間には「○○年○○月までに、これだけ出店しなければならない」という契約がある。契約内容を見ると、日本での出店数が目標を下回った場合、不足店舗分のライセンス料を米国のスターバックスに支払う必要があるのだ。

 出店目標は2009年3月期までで836店舗。2008年9月末時点で816店舗を構えているため、このペースでいけば目標は達成できるだろう。「しかし出店すればするほど出店ペースは鈍化していく。そこでライセンス料などの契約によって、収益が悪化する可能性が高い」と予測する。

 3つめの「利益還元」については、スターバックスの損益計算書を見れば分かりやすい。例えばコーヒー豆やコーヒーカップなどを、米国のスターバックスから購入しており、2008年3月末時点での取引額は67億円に達している。これに先ほど述べたライセンス料(年間50億円、2008年3月末)が加わり、合計100億円以上の資金が米国本社に流れているのだ。「ここで問題となるのは、こうした契約は大株主であるSCIの考え方によって変更ができるということ。実は日本のスターバックスは本社のコントロール下に置かれているため、スターバックスの株式を保有している個人投資家には交渉力がない。要するに株主の権限が損なわれている」という。

 個人投資家は企業がどれだけ利益を上げているのか、という点に着目しがちだが、それは1つの側面に過ぎない。企業が稼いだお金をどれだけ個人投資家に還元しているか、という点にも注目する必要がある。「外資系の場合、分配・契約構造において、問題があるケースが多い。スターバックスは個人投資家にとって人気のある銘柄だが、実は個人投資家にとって“不向きな銘柄”でもある」と分析した。

●山口揚平(やまぐち・ようへい)

早稲田大学政治経済学部卒。トーマツコンサルティング、アーサーアンダーセン、デロイト トーマツ コンサルティング、アビームM&Aコンサルティング シニア・ヴァイス・プレジデントを経て、現在はブルー・マーリン・パートナーズの代表。主な著書に『株M&A大化け相場に乗り遅れるな!』(日本実業出版社 2005年)、『なぜか日本人が知らなかった新しい株の本』(ランダムハウス講談社 2005年)、『世界を変える会社の作り方』(2008年、PDF)、『デューデリジェンスのプロが教える 企業分析力養成講座 会社の本質を見抜く9つのポイント』(日本実業出版社)など。Business Media 誠では2007年4月〜12月まで連載「時事日想」を執筆。


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