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2008年12月08日(月) 08時19分

総務省の谷脇氏、携帯業界の“官製不況”説に反論+D Mobile

 老舗メーカーの携帯事業撤退や、携帯電話事業の不振による厳しい決算内容など、端末メーカーを中心に苦戦の伝えられることが多い携帯電話業界。その理由の1つとしてしばしば挙げられるのが、2008年9月に総務省が打ち出した「モバイルビジネス活性化プラン」だ。

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 移動体通信の世界に、よりオープンで多様なビジネスを呼び込むことを目的とした施策だが、その実施から1年経った今、業界に閉塞感が漂っていることから、これもいわゆる「官製不況」の1つではないかといった声も一部で上がっている。

 mobidec 2008で講演した総務省 情報通信国際戦略局情報通信政策課長の谷脇康彦氏は、こうした見方に対し、「施策の意図が正しく伝わっていない部分がある」として、官製不況説を否定する。

●携帯市場は競争不足、しかしARPUは低下

 そもそも、モバイルビジネス活性化プラン導入の目的は何だったのか。さかのぼると、2006年6月の「通信放送の在り方に関する政府・与党合意」に端を発している。ここでは通信業界における公正競争を促進するため、ネットワークのオープン化などをルール化していく方針が固められていた。

 その後、同年9月に総務省がまとめた通信業界の競争促進施策「新競争プログラム2010」では、販売奨励金、SIMロック、ユーザーIDの取り扱いといった具体的なポイントについて、それらの在り方について再検証をするよう求めている。そのほかの競争促進に関するいくつかの提言などを受け、総務省内に「モバイルビジネス研究会」が発足。同研究会が取りまとめた報告書を元に活性化プランが生まれている。

 「競争の促進」という言葉が繰り返し出てきているが、移動体通信市場ではそれほどまでに競争が不足しているのか。ここで谷脇氏は、市場がどれだけ独占状態に近いかを定量化した「ハーフィンダール・ハーシュマン指数」(HHI)と呼ばれる指標を示した。

 これは各社のシェア(%)を二乗して合計したもので、値が大きいほど独占状態に近いことを表している。公正取引委員会のガイドラインでは、指数が1900を超えている場合、寡占性が高く競争が不足している市場とみなしているという。2008年3月の移動体通信市場における指数は3594で、谷脇氏はこれを指して「極めて寡占性が強いマーケット」だとし、さらなる競争促進が求められる根拠の1つとした。

 また、月々の契約者純増数をめぐって、通信キャリア間で熾烈な競争が続いているものの、累計加入者数で各社のシェアを見た場合、長年にわたって大きな変化は起こっておらず、市場が硬直していると見ることもできる。

 しかし、全体として通信料金は値下がり傾向にあり、各社とも収入は漸減している。携帯3社平均の契約者あたりの収入(ARPU)は2001年度に8235円だったところが、2007年度には6301円まで低下している。こうした市場の成熟期には、競争を促進しながら、新たな収入源を確保するための施策が求められ、モバイルビジネス活性化プランは、こうした問題の解決策として出されたものだった。

●垂直統合を認めないわけではない

 新たなビジネスモデル創出のための最大のキーワードが「オープン化」だ。PCでインターネットを利用するとき、利用者は端末となるPC本体や回線事業者、ISPを、各社のさまざまな製品・サービスの中から選択できる。また、閲覧するWebサイトやそのために使用するソフトウェアなども自分で自由に決めることができる。

 これが携帯電話の世界では、端末の仕様から端末の販売、回線、インターネット接続サービス、ポータルサイト、認証課金基盤といった各レイヤーが、すべて携帯電話事業者の手によって提供される「垂直統合」型のビジネスモデルで構築されている。活性化プランでは、これらの各レイヤー間のインタフェースをオープンにし、利用者の選択の幅を広げることを求めている。

 しかし、この考え方が「総務省は日本の事業者がこれまで推し進めてきたやり方を否定している」と受け止められることがある。谷脇氏は垂直統合モデルについて「いわばデパート。そこに行けばすべてが手に入る便利なシステム」とその価値を認め、「とにかくレイヤーごとに分ければいい、それ以外のものは認めない、ということを言っているわけではない。政府が特定のビジネスモデルを強制するのは望ましくない」と述べる。

 活性化プランがオープン化を求めるのは、マーケットが成熟化するに従って生まれる、“自分で各レイヤーを自由に組み合わせたい”というニーズの多様化に対応するためであり、垂直統合モデルも継続しながら、もう1つの選択肢として「水平分業」型のビジネスモデルを育てていくものであると説明した。

●販売奨励金廃止とは言っていない

 活性化プランに関する最大の誤解として谷脇氏が挙げたのが、「総務省が販売奨励金を廃止するよう事業者に求めた」とする見方だ。成約に応じて端末1台あたり3〜4万円程度の奨励金が事業者から販売代理店に支払われていたことで、契約者は安く端末を購入できていたが、頻繁に端末を買い替える人の端末代をそれ以外の人が間接的に負担しているこの構造を、活性化プランは問題視していた。

 谷脇氏は、総務省が各事業者に求めたのは「端末の価格と通信料金を明確に切り離してほしい」ということであり、「販売奨励金をなくすようにお願いしたという事実はない」と強調。取引する上で、物やサービスの正しい価格が示されているのは当然のことであり、消費者に本来の端末価格を明示することが必要であるとの考えは強いものの、「販売奨励金=悪」といったとらえ方はしていないことを説明した。

 また、現在では各社とも2年間の継続利用を前提とした契約形態を中心に据えるようになったが、これについても谷脇氏は「期間付き契約ができるのかできないのかかが不明確な部分があったのに対し、『別にいいですよ』と申し上げたのであって、縛り契約の導入をお願いしたわけではない」とコメントし、「2年縛り」は総務省の意向ではないかという見方を否定した。

●SIMロックは依然として「問題」

 各社が端末価格と通信料金の分離に動いた一方で、谷脇氏が「現在においても残っている問題」と指摘するのが、端末にかけられているSIMロックである。現在、携帯電話事業者4社はいずれも、端末と契約者情報のひも付けにSIMカードを使用しており、SIMカードを別の事業者の端末に差しても、基本的に端末は動作しない。モバイルビジネス研究会ではこれを問題視し、契約者が自由に端末を選択できるようにするべきとしている。

 谷脇氏は、かつてレンタルのみだった携帯電話機が1994年に売り切り可能となった時点から、その背景には端末の流通をオープンにしていく意向があったと話す。「メーカーや事業者は、それぞれいろいろな販売ルートで端末を独自に売っていくことが望ましい、ということで自由化が行われた」(谷脇氏)。しかし、現実には事業者による販売が主流になり、オープン化に向けて端末のレイヤーと通信サービスのレイヤーを分けるためには「原則としてSIMロックは解除する方向で今後検討していかなければならない」と、谷脇氏は指摘した。

 しかし、各キャリアの独自サービスを前提に開発された現行端末は、SIMロックを解除しても通話とSMS程度の機能しか互換性はない。また、SIMロックがなかったとしても、現状でSIMカードを交換できるのはFOMA端末とソフトバンク3G端末の間のみで、KDDIとイー・モバイルは通信方式や周波数の違いから自社端末しか使えない。このため、谷脇氏も「今すぐにSIMロックを解除するというのは、やや乱暴な議論かもしれないと考えている」と話す。

 将来的に解除する方針であることは変わらないとしながらも、「そのタイミングについては慎重に検討していかなければならない」とし、実際にSIMロックがなくなるのは、「各社の通信方式がLTEにそろう頃になる」との見方を示した。

●端末販売の不振には「冷静な議論を」

 端末販売台数が落ち込んでいる理由としては、「新スーパーボーナス」「au買い方セレクト」「バリュープラン」といった各社の新料金プラン導入後、端末価格の割高感が強くなったことがよく挙げられている。谷脇氏も「確かに、端末の買い替え頻度が従来に比べると落ちてきているのは事実。新たな料金プランが入ったことが、現在の端末販売の動向に与える影響はある」と述べ、それを認める。

 しかし、「ただ、冷静な議論が必要だろうと考えている。端末機能の成熟化、現行の景気の状況なども含めて、料金プランの是非は、これからも冷静にレビューを続けていく必要があるのではないか」(谷脇氏)とも付け加え、現時点でこの施策に対する評価を固めるのは時期尚早と見る。

 谷脇氏はほかにも、MVNOの新規参入を促進するために策定し、改正を重ねてきた「MVNO事業化ガイドライン」が一定の機能を果たし、日本通信とドコモとの間でネットワークの相互接続が行われたことや、事業者の承認を得た「公式サイト」とそれ以外のサイトとの間でユーザーの利用意向に大差がなくなってきたことを紹介。総務省としては、端末と通信サービスの分離、MVNOとMNOの関係の透明化、認証・課金といった従来事業者が独占してきたプラットフォームの開放などを通じて、「引き続き垂直統合もOK、加えて水平分業も可能な仕組み」(同)を作るべく、環境を整備すると強調した。

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