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2008年12月07日(日) 22時04分

公立病院が危ない!突然の休院、譲渡…経営危機相次ぐ産経新聞

 公立病院の経営破綻(はたん)が各地で相次いでいる。いずれも長年にわたって地域医療の拠点となってきた病院ばかりで、突然の休院、民間譲渡、合併…といった方針に、住民らの戸惑いは大きい。背景には深刻な医師不足に加え、不採算医療も担わなければならないといった公立病院ならではの事情があるようだ。(赤堀正卓)

 今年9月末に市立総合病院が診療休止となった千葉県銚子市では、病院存続を訴える市民団体が12月21日までの期間で、市長のリコール(解職要求)を求める署名活動を行っている。

 署名を集めている「『何とかしよう銚子市政』市民の会」事務局では、「病院存続に関する市民の思いには、計り知れない強さがある」と話す。銚子市の有権者は約6万人。リコールの住民投票が実現するには3分の1以上の署名が必要だが、運動開始から10日間で1万3000人の署名が集まった。事務局は「署名用紙が足りないほどだ。いかに病院が必要とされているかの証拠」という。

 佐賀県武雄市でも、月内に市立病院の存廃を争点にした市長選挙が実施されることになっている。選挙にまでは至らなくても、最近各地で公立病院の休院や民間譲渡などの方針が打ち出されている。

 厚生労働省が2日にまとめた「医療施設動態調査」によると、自治体や日赤などが開設する公的医療機関の数は、平成19年は1325病院。18年に比べて26病院(1・9%)の減だった。民間医療法人の開設病院が5702と18年比で8(0・1%)の増になっているのと対照的だ。

 休院や民間譲渡が打ち出される原因は、医師不足を原因とした経営難だ。とりわけ、16年から医師の臨床研修制度が変わり、医師が研修先を自由に選べることになったことが“致命傷”となった。施設の充実する大都市の病院に研修医が集中したことが、地方の公立病院の医師不足と経営危機を決定的なものにした。

 医師が診察できる患者数には限りがあるため、医師が減れば病院の収入も減少する。

 銚子市立総合病院の累積赤字は約18億円。武雄市民病院では約6億円といった具合だ。医療関係者の間では、全国の自治体病院の75%が赤字経営に陥っていると指摘されている。

 ただ、医師不足に悩むのは都市部以外の民間病院も同じ。なぜ、公立病院の経営危機が次々表面化するのか−。病院経営問題に詳しい伊関友伸・城西大准教授(行政学)は、「公立病院の経営には政治的リスクがある。経営トップである首長や事務職の公務員は病院経営の素人であるうえ、事務職は数年で配置換えとなる。経営を専門家に任せることが必要」と指摘。「住民の理解も必要。私立病院に比べ、患者にとって“自分たちの病院”という意識が働く公立病院ほど、ささいなことで患者が深夜に訪れるコンビニ的利用が目立ち、医師が疲弊してしまう」とも話す。

 赤字にあえぐ鹿児島、埼玉、川崎の公立病院の経営を次々に立て直し“病院界のカルロス・ゴーン”の異名も持つ、未来医療研究所の武弘道所長は「日本の医療は、救急、産科、小児科といった不採算部門の多くを公立病院に押しつけてきた現実がある」と話す。「連日の夜勤などの激務をこなしているのが公立病院の医師。まさに一般常識をかけ離れた正義と倫理観で病院を支えてきたが、限界にきている」と言う。

 武所長、伊関准教授とも存続のためには「整理・統合などによって病院の抱える診療範囲の広域化を進めたり、民間病院との機能分担なども進める必要がある」といい、公立病院の経営破綻は今後も続出すると警告している。

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