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2008年12月05日(金) 13時01分

裁判員制度:来年5月にスタート 精神疾患での責任能力巡り模擬裁判 /福島毎日新聞

 ◇妄想や自己制御能力など事例複雑、「短時間で判断」重圧に
 裁判員制度の導入を前に、地裁郡山支部で11月25〜27日の3日間、精神疾患の被告の刑事責任能力を問う模擬裁判が開かれた。妄想や自己制御能力など、複雑な事例を短時間で判断する難しさが浮き彫りになった。【今村茜】
 ◇市民6人と裁判官3人、多数決で「有罪」
 ◇有罪か無罪か迷っていたのに急に量刑を考えるのは戸惑う/他人の人生を左右するので真剣に考えざるを得ない
 裁判は、統合失調症の無職の男性(41)が、レンタカー会社から借りた車を自分のものと思い込み、車を持ち帰った同社の男性職員(当時58)をナイフで刺殺した事件を想定。裁判員には協力企業などから郡山市などの20〜60代の男女6人が選ばれ、裁判官3人と9人で評議した。
 検察側は「ナイフで刺した時は行動制御能力があり、罪の意識もあり(責任能力がある)心神耗弱だった」とし、懲役10年を求刑。弁護側は「ナイフで刺した衝動性も病気によるもので(責任能力がない)心神喪失だった」と無罪を主張した。
 簡易鑑定は「心神耗弱」とみなしたが、精神鑑定で「心神喪失」と結論づけた鑑定医は証人尋問で、「被告は相手が武装していると妄想し、自己防衛のためナイフを持って行った。刺したのも職員にばかにされたと妄想したため」と述べた。
 評議では「凶器を隠して逃走するのは普通の行為。100%病気に侵されているとは思えない」との意見が出た一方、「病気で衝動性が高まったなら行動制御能力があったか疑問」という意見も出た。また「自分が当事者なら、精神病だから無罪では理不尽だと思う」と遺族者感情を重視する意見もあった。
 裁判官1人と裁判員4人の計5人が有罪、裁判官2人と裁判員2人の計4人が無罪とし、多数決で有罪となった。量刑を巡っては、「有罪か無罪か迷っていたのに、急に量刑を考えるのは戸惑う」などの意見も出たが、最終的に懲役5年6月を言い渡した。
 裁判員を務めた会津坂下町の女子学生(24)は「病気が原因なのか分かりづらかった。他人の人生を左右するので真剣に考えざるを得ない」とし、郡山市の男性会社員(57)は「裁判官から分かりやすく説明してもらい、自分の意見を言えた」と話した。
 模擬裁判後、鑑定医役の寺山賢次医師は「病気を短時間で裁判員に理解してもらうのは難しい。患者を扱う裁判では、予備知識のある市民から裁判員を選ぶなどの工夫が必要では」と話した。
 同じ事件を想定した模擬裁判は全国で行われ、東北6県では青森、秋田、山形地裁で有罪、仙台、盛岡地裁で無罪と判断が分かれている。

12月5日朝刊

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20081205-00000076-mailo-l07