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2008年12月04日(木) 00時00分

自動車減産 解雇の通知読売新聞


フェンス越しに出荷を待ついすゞのトラックを見つめる同自動車の期間労働者(神奈川県藤沢市で)=源幸正倫撮影、写真は一部加工しています
熟練期間工 追われる冬

 米国の金融危機の影響で大幅な減産と人員削減を余儀なくされている自動車業界。トラック大手のいすゞ自動車では、820人の派遣労働者だけでなく、熟練工として直接雇用されている期間従業員580人も、雇用期間中の今月26日に全員解雇されるという異例の通知を受けていた。

「不当」仮処分申請へ

 同社栃木工場(栃木県大平町)の期間従業員160人のうち、6年前から働いている男性(48)は先月、工程責任者のライン長と労務担当の課長から会議室に呼び出され、雇用期間を3か月以上残して解雇すると告げられた。2人とはゴルフ仲間だったはずなのに、ライン長は目を合わせようとしなかった。


今月26日での解雇を告げる通知書

 男性は鹿児島生まれで独身。高校卒業後、自動車部品の販売など車にかかわる仕事を重ね、6年前から同社川崎工場で働き始めた。初めは派遣労働者だったが、栃木に移った後、2年前、2か月〜半年単位で契約を更新する期間従業員として採用された。

 この6年、大量の部品が入った箱からエンジンの種類に合わせ必要なものを選び出す作業を担当してきた。今ではエンジンの型式を書いた予定表が渡されると、一目で何が必要か頭に浮かび、自然に手が動くまでになった。欠勤や遅刻はゼロ。今年3月からは期間従業員の正社員への登用も始まり、「そろそろ自分の番」という手応えもあった。正社員としてさらに技術を磨き、後輩にも伝えたいという思いもあった。

 そんな夢や希望をあきらめていいのか。同僚に相談しているうち闘うことを決意し、賛同した仲間3人と3日、労働組合を結成。4日には、このうち1人と、「契約期間中の不当な解雇」だとして解雇予告の効力停止を求める仮処分を宇都宮地裁栃木支部に申請する。「声を上げることで、勇気づけられる人がいるはず」。男性はそう信じている。

 期間従業員との契約について、3月に施行された労働契約法は「やむを得ない事由がある場合でなければ契約期間満了までの間、労働者を解雇できない」と規定する。ただ、厚生労働省は「何を『やむを得ない』とするかまで行政は踏み込めない。司法が個別の事例について判断するもの」としており、異議があるなら裁判を起こすしかない。同社広報部は「会社業務の都合で雇用の必要がなくなった時は、直ちに契約を解除できると契約書に明記しており、法律上の問題はないと考えている」としている。

 同社藤沢工場(神奈川県)では解雇予定の期間従業員が420人に上る。

 北海道に家族を残して働いている男性(49)もその一人。6年前、もっと稼ぎたいと地元を離れ、同工場に派遣労働者として勤め始めた。車体の溶接の正確さと早さは誰にも負けないと胸を張れるまで技術を磨き、2年前には期間従業員になった。半年ごとにもらえる慰労金42万円がありがたかった。

 高校3年の次女(18)は来春、専門学校に進学する。千葉県内で就職している長女(25)の結婚資金も用意したいが、それどころではなくなった。

 「懸命に仕事を覚えても正社員でないとこんなに簡単に切り捨てられるのか」。次の仕事を見つけたいが、男性にはハローワークに行くぐらいしかすべがない。

http://www.yomiuri.co.jp/national/kishimu/kishimu081204.htm