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2008年12月02日(火) 00時00分

<3>分かりやすい立証模索読売新聞

10月の模擬裁判では検察側は法廷モニターを利用。検察、弁護側双方とも裁判員に分かりやすい説明が求められている(代表撮影、福島地裁で)

 「もっと裁判員の目を見て!」「冒頭陳述は映画の予告みたいにやらないと!」。8月2日、福島市の県弁護士会館で行われた弁護技術の講習会。強盗傷害事件を想定し、8人の弁護士が弁護側、検察側に分かれて審理を進めると、講師役の東京の弁護士から厳しい指摘が飛んだ。

 講習会を企画した相馬市の渡辺淑彦弁護士(38)は、脇で見ながらうなずいた。「裁判員裁判は法廷での説明がすべて。“魅せる能力”が必要だ」

 この7か月前、日本弁護士連合会が東京で行った研修に参加し、自分の弁護姿を映したビデオを見せられた時の衝撃が忘れられない。話しながら体が揺れる、言葉の最初に「えー」をつける——。これまで体系的な弁護技術を教わったことはなかったが、自らの経験に自信を持っていた。

 しかし、陪審制度がある米国の弁護士の法廷での立ち居振る舞いや間の取り方、質問の仕方を見て、「すべてが新鮮だった」。研修の3日間、夜になるとホテルの鏡の前で練習を繰り返した。同時に県内の弁護士の底上げも必要だと痛感した。

 10月の福島地裁での模擬裁判では、講習会に参加した弁護士が書面を持たずに裁判員の目を見たまま冒頭陳述を行うなど、効果は出始めている。それでも、県内には刑事専門の弁護士がほとんどいないことや日々の業務との兼ね合いなど、課題は多いと感じている。「あと半年間、どれだけ弁護士個人が意識を高く持って取り組むかが勝負だ」

 「所携のナイフ」は「持っていたナイフ」、「手けんで殴打」は「げんこつで殴った」——。福島地検では、これまで法廷で飛び交っていた独特な“硬い”表現の言い換えを始めている。また、裁判員の視覚に訴えようと、パソコンのソフトを使って法廷のモニターに、犯行現場の見取り図や人間関係のチャート図、写真などを表示する。これらの取り組みの評価については、会社員や主婦らに裁判を傍聴してもらう「モニター制度」を活用。既に90人以上が裁判を傍聴し、「犯行状況の図がわかりにくい」「説明がくどい」などの意見を寄せ、分かりやすい立証のための改善が図られている。

 福島市で会社員の男(35)が父親と口論の末、2階の階段から押し倒して死なせたとして傷害致死罪に問われた事件。9月に福島地裁であった公判の論告では、検察側は父親が孫を抱えてほほ笑む写真をモニター画面に映した。被害者の写真を法廷で示すのは全国的にも異例で、その場で弁護側から「強すぎる心証を与える」と異議を唱えられた。裁判長から表示の中止を指示されたが、同地検の村上満男次席検事は「どこまでが大丈夫かは今のうちに試さないといけない」と、その意図を説明した。

 判決の行方を大きく左右する法廷での「プレゼンテーション」。弁護側と検察側双方が模索を続ける法廷戦術の新しい形は、来年に始まる裁判員裁判で明らかになる。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/fukushima/feature/fukushim1228143108002_02/news/20081201-OYT8T01014.htm