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2008年12月02日(火) 11時04分

介護、ひとりでも自宅で 詐欺撃退に乗り出す社協産経新聞

 高齢者をねらった悪徳商法が後を絶ちません。独居など、お年寄りの孤独感や病気への不安をあおり、多人数で押しかけて契約を迫るなど、認知症状がなくても被害者となる可能性があります。独居高齢者が増えるなか、暮らしのお金を管理する対策が急務です。(寺田理恵)

 三重県伊賀市の沢田孝宏さん(73)=仮名=は9年間で、1700万円もの悪徳商法の被害にあった。「家まで取られるところでした。被害に遭うのは私だけでいい。少しでも良心があるなら、二度としてほしくない」と訴える。

 沢田さん宅を最初の悪質リフォーム業者が訪れたのは平成9年。妻を前年に亡くし、ひとり暮らしになった沢田さんに、業者は「アンテナが傾いている」と近づき、屋根に上った。「屋根瓦が割れている」と言うので修理を頼んだら、当初聞かされたより大規模な修理に。これを機に床下の乾燥、外壁塗装−と、次々に別の業者が訪ねてくるため、「妙だな」と思っていた。

 沢田さんは大阪市内の企業を定年退職し、12年まで地元で嘱託職員として働いていた。妻に続いて父親も亡くし、自身も病気に。認知症状はなく、判断力もあるが、精神的に弱ったところに、業者側は5〜6人で押しかけ、強引に話を進めた。「収入が年金しかない」と断ろうとすると、「年金であなたが積み立てた分は、ほんの少し。私たちが働くから年金がもらえる」などと屁理屈(へりくつ)を並べて、畳みかけた。

 被害は銀行員が詐欺を見破るまで続いた。沢田さんは「あの日のことは忘れません。平成18年3月17日でした。東京都渋谷区の団体から720万円を返済するよう、はがきで要求されました。払えなければ、まず72万円を振り込むように書かれていました。そうしなければ訴えると」と振り返る。

 「民事訴訟」と書かれたはがきに驚き、銀行の窓口に持参すると、行員が「詐欺ですからやめなさい」と声を荒らげて止めた。もっともらしい団体名は架空請求業者。行員は警察に届ける一方、伊賀市社会福祉協議会(社協)に連絡した。沢田さんは社協を通じ、弁護士にこれまでの悪徳商法で生じたローンの整理や業者との交渉を任せた。

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 伊賀市では消費生活センターが近くにないためか、平成16年ごろから高齢者をねらった悪徳商法が急増。伊賀市社協が対策に乗り出した。18年度には、「悪徳バスターズ」養成講座をスタート。市民に消費者問題の知識を身につけてもらい、だまされないようにしようというのだ。沢田さんも今は悪徳バスターズとして啓発活動に参加する。

 講座修了者が、催眠商法の店舗を早々に撤退させたこともある。催眠商法とは、廉価販売や健康相談会などを名目に客を集め、「買わないと損」との雰囲気を作り、高額商品を買わせるもの。

 高齢化が進んだ伊賀市では、シャッターの下りた空き店舗が目立つ。そこが、しばしば催眠商法の仮店舗となる。講座を修了した悪徳バスターズらは仮店舗に並ぶ客寄せ用の「3斤100円の食パン」「しょうゆ1升100円」などの廉価商品だけを買い占め、高額商品を買わされる前に引き揚げる戦術をとった。3カ月営業の予定だった業者は1週間で退散した。

 悪徳商法の手口を元に、寸劇での啓発も行っている。メンバーの古川芳子さん(56)=仮名=は寸劇の経験から悪徳商法を見破り、社協に連絡した。

 今年11月3日、作業着姿の販売員2人が「近所で塗装工事をさせてもらっています」と訪れたとき、「私のセリフ!」とピンときた。演じた役に「裏の田中さん宅で屋根の工事をしている業者ですが、お宅の屋根を拝見したらアンテナが…」というせりふがあったからだ。しかも、2人は「社協の平井さんの紹介」を1かたったという。

 こうした出来事は、注意喚起のため「悪徳商法撃退ブログ」に掲載される。古川さんは「年末には定額給付金をめぐる詐欺が起きるかもしれません。手口などを情報交換して、高齢者に伝えたい」と危機感を募らせる。

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 消費生活センターは中立・公正な立場で消費者トラブルに対応する。一方、伊賀市社協は被害者宅を訪問し、生活が立ち行くよう支援する。相談を広く受け、クーリングオフや内容証明での業者とのやりとりをサポートする。

 平井俊圭(しゅんけい)事務局長は「悪徳商法はローン契約を結ばせるため、ローンが生活費に食い込む。返済できず、家を取られてビニールハウスで生活していた高齢者もいた。悪徳バスターズは、地域の支え合いを復活させる取り組み。悪徳商法の相談は、権利擁護の入り口となっている」と話す。

 悪徳商法の被害者になる人は、「介護保険サービスを利用していない」「自宅がごみ屋敷」など、複数の問題を抱えているケースが多い。

 同社協は、認知症などで金銭管理が難しい人には、お金の引き出しや介護保険サービス契約などを手伝う地域福祉権利擁護事業(日常生活自立支援事業)が社協にあることを紹介したり、成年後見制度の利用につなげたりもする。平井さんは「福祉のニーズは時代によって変化する。介護保険ができて介護の問題は一部が解決し、権利擁護が新たな課題として浮かび上がっている」と指摘している。

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【用語解説】権利擁護

 権利を主張するのが難しい認知症高齢者などのために、権利を代弁し、守ること。平成12年の介護保険法施行で、介護サービスが措置から契約へ移行したのに伴い、必要性が高まった。主な制度に、預貯金の引き出しや介護保険サービスの契約を手伝う「日常生活自立支援事業」、成年後見人などが財産管理や介護保険サービスの契約を行う「成年後見制度」がある。

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