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2008年12月01日(月) 00時00分

【動き出す制度】(4)事情いろいろ 辞退できる?読売新聞

「だんじり」参加 清水焼職人 過疎地の医師・・・・

職人数人で役割分担している、清水焼の窯元の辛島さん(京都市山科区で)

 大阪府岸和田市の「だんじり祭」は、4トンを超えるだんじり(山車)が街を全力疾走する勇壮さで全国に知られる。大阪地裁堺支部の裁判官が同市を訪れたのは今年6月のことだった。

 地域に根ざした伝統の祭りだけに、9月の祭り本番は市全体が丸ごと熱気に包まれる。祭りを理由に裁判員を辞退する人が、どの程度に上るのか。それを見極める目的があった。

 応対した市観光振興協会事務局長石田真一さん(62)は、当然という表情で言い切った。「祭りの責任者は会議や行事で仕事との両立さえ難しい。協力したくても、とても無理でしょう」

 地裁堺支部は祭りの時期に裁判所に呼び出す人数を増やすことも検討中だ。

 裁判員を辞退することは原則できないが、裁判員法は「やむを得ない理由」がある場合などに辞退を認めるとしている。しかし、その事情は地域ごとに異なり、各地裁は今、管内の実情把握に努めている。

 東京地裁の裁判官3人は10月、都心の南約290キロの海上に浮かぶ八丈島に飛んだ。裁判が仮に3日で終わっても、行き帰りを加えて最低5日が必要になることへの懸念が続出した。

 島民には観光産業に携わる人が多い。ダイビングショップを経営する大石義之さん(40)は5〜11月のシーズン中に1年分の収入を稼ぐ。「制度に興味はあるが、シーズン中は勘弁してほしい」と語った。

 来年、裁判員になる可能性のある人へ11月29日から通知が届き始めた。受けとった人は辞退を希望する「月」を事前に申告できるが、上限は2か月まで。現実には大石さんのように、「2か月では少なすぎる」という人は多い。

 鳥取県湯梨浜町で二十世紀梨を栽培する寺地政明さん(53)も、その一人。「参加できるとしても1月のわずかな間だけ」と言う。収穫期以外でも授粉や摘果などの作業が年中ある。

 「職人が1人欠ければ全工程が止まる」。古都京都の清水焼関係者からは、そんな声が上がっている。成形から絵付け、窯焼きまでの作業を職人が分業しているからだ。窯元「富田玉凰陶苑」の辛島延珠さん(39)は「3日間ぐらいなら何とかなるが、それ以上は……」と言葉を濁した。


出張医の応援で内科診療している北見赤十字病院

 過疎地の医師からは悲鳴に近い声すら聞こえる。

 北海道北見市の北見赤十字病院の内科は今年4月、「負担が限界を超えた」と医師6人が一斉退職し、休診に追い込まれた。東京、大阪の系列病院から応援を得て再開にこぎつけたが、「当直体制を維持できるギリギリ」の状態にある。

 吉田茂夫院長は「我々の病院は地域医療の最後の砦だが、崩壊寸前だ。医師1人が欠けただけで医療体制に穴が開くことを理解してほしい」と訴えた。

 辞退希望をどこまで受け入れるのか。最高裁は独自の調査を行い、職業や立場にかかわらず、▽他人に仕事を代わってもらえない事情があるか▽仕事や生活に深刻な影響が出るか——の2点を重視すべきだとの考え方を示している。

 姫路独協大法学部の道谷卓教授(刑事法)は「辞退を安易に認めるべきではないが、あまりにしゃくし定規だと制度崩壊につながりかねない。裁判官は柔軟な判断を求められている」と指摘している。

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20081128-033595/fe_081201_01.htm