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2008年12月01日(月) 00時00分

<2>不安払拭へ出前講座読売新聞

アネッサクラブが開いた裁判員制度のセミナー。こうした民間主催の勉強会が県内各地で増えている(会津若松市大町で)

 被告に圧迫感を与えないよう従来より10センチ低い法壇、車いす利用者のための取り外し可能な傍聴席——。11月8日に行われた福島地裁郡山支部刑事棟の新法廷の見学ツアーで、12人の参加者は同支部職員の説明にしきりにうなずいていた。裁判員専用の通路や喫煙室に加え、評議室には観葉植物やソファを備え、リラックスして臨んでもらうための配慮がされていることも強調された。福島地裁は、裁判員制度のための改修工事を既に終え、金谷暁所長は「裁判員の皆さんを迎えるための環境は整った」と胸を張る。

 しかし、市民の意識はどうだろうか。最高裁が今年1、2月に行った調査では、県内で「参加したい」「参加してもよい」と回答したのは合わせて16・7%だった。これに対して、「義務であっても参加したくない」は37・6%、「義務なら参加せざるを得ない」が41・9%で、消極派が大多数を占めた。

 最も多い理由(複数回答)は「被告の運命が決まるため、責任が重い」(56・2%)で、「素人なので不安」(46・2%)、「冷静に判断できる自信がない」(41・4%)などと続いた。

 平田村では、国民参加の司法制度の“先輩”にあたる検察審査員に選ばれた住民から役場に「やりたくない。辞退したい」という電話があったという。同村の担当者は「裁判員制度も制度への理解が浸透していなければ同じような苦情が来るのではないか」と不安を口にする。

 そんな不安を払拭(ふっしょく)しようと、裁判所が行っていることの一つが出前講座だ。

 「被告や被害者の親類は辞退できるの?」「一度裁判員に選ばれたら、もうしなくてもいいの?」。11月5日夜、会津若松市で町おこしに取り組む女性グループ「アネッサクラブ」が裁判所に依頼し、小学生から70歳代までの住民25人が集まって開かれた裁判員制度の出前講座。参加者からはそんな質問が矢継ぎ早に出された。講師の増永謙一郎・地裁会津若松支部長が丁寧に答える。「親類なら裁判員にはなれません」「一度なったら辞退できます」

 答えの度に、参加者の不安げな表情は、少しずつ和らいでいった。終了後、主婦石光淑恵さん(41)は「面倒くさそうと思っていたけれど、話を聞いて気が楽になった。自分の経験も生かせるかもと思い、ちょっぴり興味がわいた」

 裁判所は、ほかにも、企業や団体への訪問、広報用映画の上映会や夏休み中の親子向けに模擬裁判や法廷見学などを実施。10月には、日中忙しい会社員や主婦らを対象に、午後6時半開始の模擬評議を開催した。約2時間にわたる評議を体験した福島市の会社員馬場茂雄さん(47)は「裁判所は平日の昼間しか開いていないと思っていたが、変わってきたと思った」と話す。

 こうした効果もあってか、市民の意識に変化の兆しも表れ始めた。県内の裁判所への出前講座依頼は、昨年度は43団体だったのに対し、今年度は4月〜7月だけで既に41団体あった。

 ただ、これらの人々は自ら関心を抱いた人ばかり。最高裁が28日に通知を発送した県内の裁判員候補者3500人は、無作為に選ばれた人たちだ。あと半年で、制度をどれだけ多くの人に理解してもらえるのか。大きな課題が残っている。

http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/fukushima/feature/fukushim1228143108002_02/news/20081201-OYT8T01007.htm